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 Diary 2004・8月7日(Sat.)

ババリン

 夕方に突然の大雨と雷。まるでスコールのやうである。いきなりのことだつたので、街中には傘を持つてゐない人も多く、ずぶ濡れになりながら走り回つてゐる。このやうな大雨では、お客さんは来ない。土曜日だといふのに…私は他のお客さんが皆無の状態で、2 時間ほど可能涼介と向かひ合はなければならなかつた。学校が夏休みに入つた可能が、久々に来店したのだ。

「オレ、自分のこと、学校のみんなに『ババリン』と呼ばせてゐるんだよ」と可能。「ババリン」とは、主にトモコが中心に使用してゐる可能に対する綽名である。いや、直接可能に「ババリン」と呼びかけるのは、トモコだけかもしれない。なぜそんなマイナーな綽名を、級友たちに強要してゐるのか? 実は密かに気に入つてゐたのだらうか、「ババリン」を。

「いや、オレ、『癒し系』なんだよ、学校では」

 癒し系? な、なんぢやソリャ?

「ま、なんといふか、みんな若いぢやないですか。オレより 10 歳以上若い。だから、色々と相談に来るわけ。で、若い奴らッて、視野が狭いから、下らないことで悩んでゐるんだよ。その事を、もう少し大きな視野で眺められるやうにしてやると、大抵みんな喜ぶの。解消するんだよ、悩みが。それで、癒し系。」

 ううーん、さうか。まァ、分からないでもないが、お前に相談するなんて、なんていふか…。

「ホントだよ。学校では、悩み事があればババリンのところへ、と言はれてゐる。標語まで出来た」

 標語? なに、それ。

「嘘みたいだけど、『頭痛にババリン』、ッて言ふんだよ」……。

 ハッシー来店。「今日は大変でした。会社の事務所が床下浸水して。最初のうちは笑つてゐたんですが、だんだんゴミ箱は浮いてくるは、ゴキブリホイホイは浮いてくるはで、水も膝下まで来るし、怖くなつてきて」

 タカハシくん来店。「今日、大変でした。店の前の溝が溢れて、店内まで入つて来たんですよ! 開店直前やつたんで、メチャ焦りました!」

 確かに今日のは凄かつた。

小川顕太郎 Original: 2004-Aug-9;