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 Diary 2004・4月18日(SUN.)

バーバーショップ

cover

 DVD で『バーバーショップ』を観る。これはアイス・キューブ主演・制作の映画で、昨年本国アメリカでは大ヒットを記録した作品である。アイス・キューブは、今やラッパーとしてだけではなく、映画人としても地位を確立してゐるが、日本ではほとんど彼の作品は公開されてゐない。それどころか、ビデオ・DVD にもあまりなつてゐなくて(『フライデー』シリーズを DVD 化しろ!)、アイス・キューブファンとしては非常に辛い状況にある。そんな所に、何故か『バーバーショップ』が日本発売された訳で、これは僥倖と素直に喜んだ。

 黒人たちの集まる、といふかコミュニティの社交場として機能してゐるバーバーショップを舞台に、黒人たちの風俗と音楽をふんだんにぶち込んだコメディで、ブラックムービーとしての伝統を踏まへながら、一級の娯楽作品として仕上がつてゐる。私とトモコは何度も「最高!」と叫んだほど面白かつたのだが、そして実際面白いのだが、ある程度ブラックカルチャー、といふかアメリカ文化についての知識がなければ、分からないところも多少あるかもしれない。例へば、次のやうな場面がある。古株の、公民権運動を闘つてきた黒人が、「そろそろ黒人も嘘をやめるべきだ! 少なくとも次の三つ!」と言つて、以下のやうな演説を始める。

「その一! ロドニー・キングは酔ッ払ッてゐた。殴られて当然だつた!」

「オオー!!」

「その二!!  O.J. はやつてゐる!!」

「ああー、やつてる、やつてる!!」

「その三!!! ローザ・パークスは疲れて座つただけだ!!!」

「オオー!!! ノー!!!」

 …と、この程度のやりとりのおかしさが分からないと、『バーバーショップ』を十全に楽しむことは出来ないかもしれない。そこが、アイス・キューブの映画がそんなに日本で公開されない理由かもしれないが、しかし、さらに考へてみるに、いやしくも洋画を観るのなら、この程度のことが分からないやうではダメであらう。淀川長治も言つてゐたやうに、映画を楽しむのなら、映画を観てゐるだけではダメなのだ。この映画は、昨年のリバータリアン映画にも選ばれてゐたやうだが、それは上にあげたやうな PC を笑ひ飛ばすやうなシーンに溢れてゐることもあろうし、コミュニティの復権を訴へるといふ主題が貫かれてゐるところにもよるだらう。アンチグローバリズム・アンチ管理社会、なのだ。また、この映画は、最小の制作費で最大の興行収入をあげた作品としての栄誉も得てゐたが、さういつたところも、リバータリアン的かもしれない。やたら巨額の制作費をかける傾向にあるハリウッド大作に対する、アンチの意味合ひがあるのだ。

 つまりは、非常に重要な作品であるといふ事が言ひたい訳で、みなさん是非観て下さい。そして、『バーバーショップ 2』は(サントラはすでに聴きましたが、出色のできです!)、日本で公開できるやうにしませう。

小川顕太郎 Original: 2004-Apr-20;
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