SHOWDOWN AT
CAFE OPAL
NO MAE
「ROMANZA」にてカット。その後「****」を観てからオパールに出勤すると、さすがに連休といふこともあつて、店は賑はつてゐた。私は早速腕まくりしてカウンター内に入り、溜まつてゐるオーダーを作り始めた。すると、そこにマツヤマさんが来店。と、思ひきや、何故か手招きをして呼ばれ、店の外に連れ出された。「看板が破壊されてゐますよ」とマツヤマさん。ガーン、またか。たまにあるのだ。多分酔つ払ひが倒していくのだらう。外に出ると、フクイくんとナエムラさんが立つてをり、看板が無惨にもバラバラになつて散乱してゐる。
ま、正直言つてこの看板も相当ガタがきてゐるからなァ、倒されれば簡単にバラバラになるのですよ。でもその分、一応の形をつけるぐらゐに組み直すのも比較的簡単にできるので、私はバラバラになつた部品を拾ひ集め、割れたりしてゐる所はなんとか誤魔化しつつ、組み直し始めた。と、そこに一人の中年女性がやつて来て、「看板を倒した人、あそこにゐますよ」と教へてくれた。なんでも、この犯人は、色々な店の看板やバイク、自転車などを倒しながら河原町通りを上がつて来たのださうだ。さうなのか。しかし、そこはバス停であり、多くの人が屯してゐて、どれが犯人なのか分からない。するとマツヤマさんが「ちよつと、行つてくるわ」と言つて、スタスタとその人混みの方へ歩いていつた。
え? え?、マツヤマさん大丈夫なの? と、私は思ひつつも、看板の組み直しに悪戦苦闘してゐた。とにかく、看板がなければ商売にならない。と…「逃げた!」と言ふ叫びとともにマツヤマさんが猛烈な勢ひで私の横を駆け抜けた。そして満員のバスの乗り口に飛びつき、中に向かつて「そいつは犯罪者だ!」と叫んだ。どうやら、犯人はいましも出やうとしてゐるバスの中に潜り込んだやうなのだ。しばらく揉み合ひが続いてゐる間に、私もどうやら看板の方は片付け、バスに駆けつけた。すると、ちやうどマツヤマさんがひとりの背の高い、スーツ姿のサラリーマンをバスから引きずり降ろしてゐる所であつた。往生際悪く逃げやうとするサラリーマン。マツヤマさんはその胸ぐらを掴んでビルの中まで引きずつていき、「逃げるな!」と言ひながら壁に叩きつけ、「酔つ払つても、やつていい事と悪い事があるんだ!」と睨みつけた。サラリーマンが「苦しい! 首を絞めないでください…」とバタバタしたので、「首なんか絞めてゐないよ!」と言ひ捨てながら、マツヤマさんは相手の胸ぐらから手を離し、「お店にとつてはなァ、看板はいのちなんだよ! みんないのち張つて、商売してるんだ、それを壊すことは許されないんだよ!」と、叫んだ。それを聞いたサラリーマンは、そのままズルズルと壁からずり落ちていつて床にしゃがみ込み、頭を抱へこんでしまつた。
やがて、先程の中年女性の方が呼んだ警察官たちがやつて来て、我々の周りを取り囲み、事情聴取が始まつた…。
私は、これらの間中、看板の壊れた部品を手に右往左往してゐたのだけれど、マツヤマさんは終始毅然とした態度を持してゐた。私はそこに、**に裏付けられた自信と胆力を読みとり、感動した。みんなにも、このマツヤマさんの勇姿を見せてあげたい、と強く思つた。
しかし、その頃オパールでは、忙しい時に突如として姿を消した私に対して、みんなの非難が集中していたのであつた。
本日はなかなか忙しかつたです。
小川顕太郎 Original:2003-Nov-4;