ハシモトくん来店
昨日は、クラタニくん、ヤマネくん、オイシンの 3 人が、本日の甲子園行きを前に怪気炎をあげ、さらにババさんもそれを見て笑つてゐたので、カウンターは随分と賑やかだつたが、本日は打つて変はつて静か。カズ 16 がひとりでポツンと人体解剖図なんかを眺めてゐる。そのカズ 16 も帰り、さて、少し寂しいが、そろそろ店を閉めるか、と考へてゐたら電話がなつた。ユキエさんがとつたのだが、すぐ切れた電話の主は、どうもハシモトくんらしい、と言ふ。はて? どうなつてゐるのかな? と首を傾げる間もなく再び電話がなり、今度はトモコが受話器をとりあげたのだが、やはり、ハシモトくんであつた。閉店間際なのは承知してゐるが、側にゐるので、少しだけ寄つてもよいか、と言ふ。もちろん大歓迎である。すぐ来てねー、と答へて受話器をおいた。
しばらくして、ハシモトくん、マツイさん、ミカちやんが来店。お、ミカちやん、久しぶり。さういへば、マツイさんはミカちやんと友だちであつた。ハシモトくんは、「さつきの電話、ボクと分かりました?」と、独特の声と喋り方で尋ねる。分かる、っちゅーねん。たぶん、街の雑踏の中で擦れ違つても、すぐ分かると思ふぞ。と言へば、さういへば街を歩いてゐる時に、よく「さつきどこどこに居たやろ」と携帯に電話が掛かつてくるんです、と不思議さうに答へる。やはり。それでもハシモトくんは自覚がないらしく「いやー、凄いなあ、声だけでボクと分かるなんて、凄いなー、ミヨシさん」としきりに感心してゐる。…ところで、ミヨシさんって、誰? 「え? ミヨシさん…ああ、ユキエさんですか! ユキエさん、ユキエさんです、凄いのは」。ハシモトくんは、名前を覚えるのが苦手なのであつた。オイシンのことも、オノシンと言つてゐたし。
ハシモトくんは、しきりに「いつも閉店間際に来てすんません。」と言ふ。こちらがいくら「気にしなくていいよ」と言つても、「でも、一昨日も遅くまでひとり残つてゐたし…すんません」と言ふ。まあ、お客さんの立場になれば、確かにいくら店の人に「気にしなくていいよ」と言はれても、気になるだらう。でも、ほんとに、気にせずドンドン来てほしい。基本的に、店の人間にとつて、来店して貰へる、といふ事ほど嬉しいことはないのだから。
「実はね、昨日も『オパール行きたいなあ、でも昨日も遅くまで居たし』と言つて、オパールの周りをウロウロしてゐたんですよ。気にせず行けば、と言つたんですけど」
とマツイさん。…そ、それなら来てよ!
「いや、でも……すんません」
ほんと、毎日でも来てほしいです。
小川顕太郎 Original:2003-Jun-6;