文物
テラダさん宅を訪問。着くなりテラダさんから「さあ、何から行こか!」と言はれ、何からって…書? 篆刻? 画? と狼狽へてゐたら、「まづは、やはりこれか」と、ビールを出してきた。なんだ、お酒の話だつたのか。私も、持参したワインや日本酒を机の上に並べる。で、乾杯。
「さあ、ぢや、篆書やな」。え? 篆書ですか? と、戸惑ひつつ、私は渡された筆を右手に、ビールグラスを左手に持つて、篆書を書き始めた。
「うーん、オガワくんなあ、終筆があかんわ、払つてしまつてゐる。始筆も打ち込み気味やなあ…、途中も、筆管が曲がつてゐるんとちやうか。まあ、この 3 点を直せば、ちよつとは良くなるよ」
なるほど。最初と、途中と、最後さへ直したらいいんですね。…って、それ、全部直さないとダメぢやないですか。
「ほれ、これは龍門や。本物の拓本やで」あ! 凄いなあ。この隣は、…呉昌碩? こちらは梅先生に、小先生…いいなあ、これ、幾らぐらゐするんですか? …はあ、やはり、そんなもんですか…あれ? これは石川九楊ぢやないですか…。さうかうしてゐるうちにテンコさんが帰つてきて、晩酌タイムとなる。
テラダさんと、テンコさんが作つた料理が次々と卓上に並べられていく。その合間に、様々な石材、玉、硯、印譜、なども差し出される。私はそれらを眺め、食べ、撫でさすり、飲み、鼻に擦りつけたりしながら、お二人の会話に相槌を打つ。
「文物にはまるのは、ある意味、クスリにはまるより質が悪いらしいよ」
うーん、なるほどねえ。
「若い頃は、***の人たちと一緒に、よく**して、小遣ひを稼いだけどな」
うーむ、それは、書けないなあ。
「とにかく、ボコボコにする」
むーん。
などと話してゐるうちに夜中の 3 時。長居をし過ぎましたか。どうも、時間の経つのが早いやうな。またの再訪を約してそこを辞す。ちなみに、本日トモコはワリイシさんの個展を見に、大阪まで行つてゐたので、私ひとりでの訪問となつたが、また二人で来ます。
田黄、欲しいなあ。
小川顕太郎 Original:2003-Jul-12;