クラプト & ロスコー来日!
年末の忙しい時期だといふのに、私とトモコは店を休んでベイサイド・ジェニーまで出掛けていつた。クラプトとロスコーがやつて来るのだ。クラプトと言へば、私の最も観てみたいラッパーのひとり。ロスコーはその弟である。二人のうち、どちらかでも来日したら、店を休んででも観に行かう、と前から冗談で言つてゐたのだが、なんと兄弟揃つてやつて来てしまつた。これは行かねばならない。店はユキエさんとショウヘイくんに、オイシンをつけて、任せた。「任せてください!」と言ふオイシンの笑顔をみて、不安でいつぱいになりながら我々は大阪港に向かつたのである。
ハッサクさんと待ち合はせ、ベイサイド・ジェニーへ。会場は多くの B-BOY & B-GIRL たちの熱気で蒸せてゐた。ステージには、次々とダンサーたちが現れては踊りまくる。DJ タイムを挟みながらも、何組もこれが続く。これと、ドーベルマン INC に関しては、ノーコメント。とりあへず、みなさん頑張つてゐました。
もう、ヘトヘトに疲れ果てた頃に、やつと BIG BOY と DJ E-MAN が登場。今回のツアーは、彼らがプレゼンしてゐるのだ。それまでドンヨリとしてゐた会場のテンションが一気にあがる。分かりやすくウエッサイな DJ プレイと、Tシャツとステッカーを客席にばらまきまくる煽りで、会場を揺らす。そして、散々盛り上げた後で、とうとう! ロスコーの登場だ!! おお! ロスコー、やはり二枚目だー!
……ヘロヘロである。声も潰れてゐる。今日はツアー最終日。うーん、まだ若いから、ペース配分を間違つてしまつたんだね、ロスコー。これから何度も場数を踏んで、立派なラッパーになつてくれたまへ。と、妙に暖かい気持ちになる。ファンが手渡す帽子や靴にサインをしては返しながら、潰れた声で必死にラップするロスコーを観てゐると、そんな気持ちになるのもむべなるかな、といつた所だらう。
何曲か終へた後、舞台が暗転したと思つたら、そこにクラプトが立つてゐた。手にはお決まりの如く酒瓶。か、かつこいい。客席をひとにらみしてから、やおらラップを始める。私の中で、なにかが強烈に噴出した。やはり、クラプトは違ふ。兄ちやんは違ふよ。素晴らしい迫力だ。アルコールをラッパ飲みしながら、ステージを所狭しと暴れ回る。ロスコーと共に、C-WALK をきめまくる。途中で客席からひとりの男の子が舞台に駆け上がり、C-WALK をきめて、サッと客席に下りた。すると、その子を舞台に引きずりあげ、フリースタイルで煽りながら、散々C-WALK を踊らせる。C-WALK は、もともとギャング団のクリップスの踊りなので、クリップスぢやない奴は気軽に踊るな、と昔クラプトは言つてゐたので、変な日本人が勝手に舞台で踊つたことに対して怒るのかなー、とも思つたのだが、クラプトはとても嬉しさうである。最後はその子の肩を抱いて、「ザッツ、マイ、ニガ!!」と叫ぶ。うーん、おもろすぎ。
また、客のひとりがク*ニ*クを客席から手渡すと、それを旨さうに吸ひ、煙をあたりに撒き散らしながら、その客を指さして「ザッツ、マイ、ニガ!!」と叫ぶ。その時のクラプトの嬉しさうな顔と言つたら! 素敵、といふ一言に尽きる。
『WHO RIDE WIT US』『GIRL ALL PAUSE』といつた定番曲から『NEW YORK, NEW YORK』『AIN'T NO FUN』といつたクラシック、『IN DA CLUB』のトラックを使つた曲まで、堪能した。音が必ずしも良くなかつたし(ちなみに DJ は E-MAN)、客のノリも最高とは言ひ難かつたが、個人的には充分楽しめたステージだつた。店を休んででも来て、ホントに良かつた。体調不良でグッタリしてゐたトモコも、すつかり元気になつてゐた。
ステージ終了後、Tシャツ売り場でサイン会が行はれた。こんなことまでやるんだね、クラプト、とチョット感動。ロスコーのが 2500 円、クラプトのが 3000 円で売つてゐたので、トモコがそれを買おうとする。これを買ふと、BIG BOY、E-MAN、ロスコー、クラプトの4人がサインをしてくれるのだ。と、売り場の日本人が「1 万円です」と言ふ。トモコが、「え! でも、2500 円て、書いてありますよね。4 枚ぢゃないですよ、2 枚ですよ、2 枚」と喰ひ下がると、「んー、もう、在庫も少ないですしねェ、サインもつくことですし、ここはひとつ、お願ひします」と答へられた。な、何がお願ひしますぢや! とむかついたが、隣にはクラプトたちがニコニコしながら待つてゐる。トモコは泣きながら 1 万円を払つた。
このボッタクリが、クラプト側からの指示だつたのか、日本側の勝手な行為だつたのか、よく分からない。が、このお金がクラプトたちのもとに入ることを、強く祈つた。
クラプトは女の子にはとても愛想が良かつた。トモコがカメラを向けると、サッとポーズを作つてくれるし、握手をする時は花のやうな笑顔をつくる。ワルさうな黒人の作る笑顔ほど素敵なものは、あまりないだらう。クラプトが他の女の子とツーショットを撮つてゐる様を、トモコが横からデジカメに収めやうとすると、サッとトモコの方を向いてポーズを作る。あれ?クラプト、ちよつとトモコを贔屓してないか。ま、トモコは少し(少しだけだか)、フォクシー・ブラウンに似てゐるからなァ。とまァ、かういふ妄想も、面白いものです。
来年は、是非ダズに来日して貰ひたい。
小川顕太郎 Original:2004-Jan-1;