京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

HOME > diary > 01 > 0601
 Diary 2001・6月1日(FRI.)

見学

 テラダさんと 17 時半に待ち合わせ、畦石舎に見学に行く。場所は「賛交」という書道道具屋さんの奥にある「賛交文化サロン」。ここは曜日ごとに先生が変わり、教える内容も異なる。本日は小先生による、篆刻教室。それは分かっていたけれども、他の曜日に「書道・漢字」「書道・かな」などがあって、私がやりたいのは書なのだが本当に大丈夫だろうか、テラダさんは小先生は何でも教えてくれると言っていたが…と、いささか不安になる。

 見学申込書に名前や住所を記入し、教室に入る。思っていたより小さな教室で、人も少ない。そして小先生はよく笑う、思いっきりのおじさんだった。教室では、まず生徒の人達が宿題を提出する。それを小先生が朱筆で直し、短評を与え、新たなお手本を書いてくれる。それで終わりだ。ここで私の胸中に浮かんだ不安は二つ。ひとつは、全員が全員、篆刻の作品と篆書の作品を提出していること。誰も楷書や行・草書の作品を出していない。本当に私のイメージするところの所謂「書」が習えるのだろうか? もうひとつは、なんというか、もの凄くレベルの高いことをやっているのではないか、という事だ。

 私なんてまったくの素人なので当たり前なのかもしれないが、みんな凄く上手に見える。そしてそれを直す小先生も、「うーん、ここはもうちょっと短い方がいいな。」とか言って、横画の棒の長さをチョンと点を打って短くしたりする。で、終わり。私は学校の習字以来なんにもやったことがなく、それも不真面目で、成績がすごく悪かった人間だ。はっきり言って、筆の持ち方からして分からない。…なんだか、凄く場違いな所に来てしまったのではないだろうか?

 それでも最後に小先生にこの旨を糺すと、大丈夫、楷書から教えますよ、との事だった。小先生の最近の作の写真を見せてもらうと、そこには篆書や楷書、かなや絵などが混在しており、真中よりすこし左寄りのところに篆刻印が押してあるもので、とてもかっこうよい。テラダさんの言う通り、何でも教えてくれる先生なのだろう。さらに、半紙にサラサラと楷書の文字を 5 種類にわたって表情を違えて書き分けてくれ、「とりあえず、これを書いてきてみて下さい。」と下さった。おお! とうとう始めるのか! と思いながら、そこを辞して店に向かった。

 夜にテラダさんと小先生がオパールに来店。そこで話をして分かったのだが、私の「場違い感」はまんざら間違いでもなかったようだ。あの時、私の他に居た生徒さん達、おばさん達だったのだが、は、なんと自分でいくつも教室を持って教えている書道の先生方だったのだ! 個展なんかもひらいているらしい。むむうう、そうかあ、やっぱ私はとてつもなく場違いだったのでは…。

「いやいや、そんな事はない。」と小先生は酔眼で強調する。「何にも知らない方が、かえって教え甲斐がある。わたしの所でキチッとやれば、早くて半年で芽が出る。遅くても 1 年。2 年はかからない。それでもダメな場合は他所に行って下さい。」

 え、ええ!? そうなんですか?

「そうだね、半年で芽が出るように頑張ろう! やるからには良いところを目指さないと。綺麗な字が書けるレベルでは、つまらないよ。」とテラダさんも頷く。

 …なんだか話が急激に違う方向に向かっているような…。「書」って面白そうだ! と私が騒ぎ出してから、まだ一月もたっていない。興味を持てば、やってみたくなるのは人情。下手の横好きでもいいから、「書」を楽しんでみたい、と考えていたのだが、この展開はもしかして…と新たなる不安に苛まれながら、ワインを呷る。まあ、来週に私の書いたものを持って行けば、全てがスッキリするでしょう。私は自分に「書」の才能があるとは、とても思えません。

小川顕太郎 Original:2001-Jun-2;