ブロークダウン・パレス
「夢の卒業旅行、身も凍る悪夢」というコピーであるが、これぢゃあなかなか見に行く気になりませんよね。でも、この映画、『ミッドナイト・エクスプレス』の 90 年代女の子版というべき内容である。『ミッドナイト・エクスプレス』は、舞台がトルコで、あまりにもトルコの刑務所が恐ろしく描かれていたのでトルコ政府が抗議した、というアラン・パーカー監督のパンクな傑作。この『ブロークダウン・パレス』はそれほどの物議をかもす強烈さはないが逆にリアリティがある、と言える。監督は『レベルポイント』、『不法侵入』など 70 年代からずっとがんばっているジョナサン・カプラン。飛び抜けておもしろい映画を撮るわけではないが、とりあえずはしっかりした演出であります。
アメリカ文化が他国の風土や慣習とアツレキを起こす様を描いており、「文明の衝突」を具体的に展開した映画といえなくもない。『ロミオ+ジュリエット』などで最近がんばっているクレア・デインズとその女友だちが卒業旅行でタイへ。タイ人のメンタリティを一顧だにせぬアメリカ人的な傍若無人ぶりを発揮。ちょいと羽を伸ばして香港へ…と思ったら、カバンから大量のヘロインが出てきて刑務所にブチ込まれる。日頃、アメリカンな方々の「郷に入れば郷に従え」なんちゅう言葉は知らないよ、という振る舞いに苦々しいものを感じている者にとっては、作り手の意図は知らねど胸のすく展開。
なんせアメリカ人の小娘なもんだから「大丈夫、お父さんがきっと出してくれるわよ〜」と楽観的で、さすがはフロンティアスピリットあふれる国民だなあ、とか思う。ところがタイ政府は麻薬犯罪には特別に厳しく取り締まるという方針とかで、小娘どもの希望は次々とうち砕かれていく。ざまあみろってなものですね。しかしながら、ボクは刑務所ってのは国を問わず、もっとヘヴィなところで(刑務所に入ったことは幸いにしてないので憶測です)、もっとたいへんな目に会って欲しい、もっと我々アジア人にカタルシスを味あわせて欲しいとか思ったり。主人公にいぢわるをするタイの女囚というキャラクターが出てくるのだが、たかが魚の頭を寝床に入れるくらいぢゃあなんともヌルい。イタリア人なんか馬の首を入れるんだぜ。タイ人だったら象の首くらい入れんかい! と誰しも思うところであろう。
彼女たちに救いの手をさしのべるのはタイ人の奥さんを持ち、タイで活動する弁護士、ビル・プルマンだ。なんか谷口ジローのマンガに出てきそうな雰囲気でなかなか良いです。このハードボイルドな弁護士のガンバリで事態は好転するように見えたのだが…。後は映画を見てください。
一瞬、「ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントな者どもよ、あんまり他の国で好き勝手にやってると痛い目にあうぜ、アメリカの常識は世界で通用するほど甘くないぜ」ということを言いたい映画か? と思ったが、結局そういう「文明の衝突」的主題はどこかへすっ飛んで少女の友情と成長の物語という落としどころで軽くまとめられているのはガッカリな気もするが、クレア・デインズがメチャクチャ良く、泣かせるのでオッケーです。最近気色の悪い役が多いルー・ダイアモンド・フィリップスも出てます。いろいろ書きましたが、宣伝コピーよりは確実におもしろい映画。あんまりほめているように読めないと思うがオススメだぜ。
BABA Original: 1999-Jan-16;