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 Movie Review 2005年3月23日(Wed.)

ライフ・イズ・コメディ!
ピーターセラーズの愛し方

 人生は、最高にドラマチック。『ピンク・パンサー』シリーズの天才コメディ俳優ピーター・セラーズの華麗で波瀾万丈な人生物語(ヒューマン・ストーリー)。ババーン!

『Ray/レイ』ジェイミー・フォックス、『ビヨンド the シー』ケヴィン・スペイシーに続く、世界モノマネ選手権大会、次のエントリーはジェフリー・ラッシュ! 挑むはピーター・セラーズのモノマネです。張り切ってどうぞーッ! …って感じ、そもそもピーター・セラーズこそモノマネ/人マネを得意とする役者さん、そのピーター・セラーズのモノマネは、すこぶるチャレンジングであったことであろう。うむ。と一人ごちました。

 私のイメージでは小男ピーター・セラーズ、大男ジェフリー・ラッシュが演じるのは無理あり過ぎ! …なのですけど、どういうマジックか、映画の中のジェフリー・ラッシュは小男に見え、ピーター・セラーズの映画出演シーンの数々が見事に、克明に、執拗に再現され、だんだんと違和感がなくなってくる出来映え、最高の難役に挑んだジェフリー・ラッシュこそ、モノマネチャンピオン賞である! と思いました。ジェフリー・ラッシュ扮するピーター・セラーズは唐突に、奥さん・母親などをも演じて、自分の都合のよいセリフを勝手に語り出す…みたいなうさんくさい演出も、ピーター・セラーズっぽくてグー。

[ストレンジラブ博士]に扮したピーター・セラーズをジェフリー・ラッシュが演じるシーンは、まるでホンモノの[ストレンジラブ博士]! ついでに、ブリット・エクランドのモノマネに挑んだシャーリズ・セロンも良い感じでございました。

 それはともかく、原題は「The Life and Death of Peter Sellers」=『ピーター・セラーズの生と死』、主には、映画デビュー後のピーター・セラーズを、けちょんけちょんに描いてまして、母親にとことん甘やかされて育てられた大きな子供みたいなヤツで、妻子がある身ながらソフィア・ローレンに猛アタックをかける阿呆ぶり、無類の美女好きぶり、暴力亭主で、癇癪を起こして息子のオモチャを破壊しつくすシーンなど、私生活はホントにたまらん、歪んだ人物として描かれます。

 故人をここまで歪んだキャラクターとして描くのはいかがなものか? と思わないでもないですが、そういう私生活のゴタゴタ、監督とのアレコレなどが、どう演技に反映しているか? を検証する、映画による一ヶの「ピーター・セラーズ評伝」となってまして、綿密なリサーチがなされたことがうかがえる脚本・演出、根底には作り手のピーター・セラーズに対する並々ならぬ愛情(というか執着)がうかがえ、そもそも私も歪んだ性格ですので、以前にも増してピーター・セラーズを好きになってしまったのでした。ピーター・セラーズ最高!

 私生活・仕事でのゴタゴタの末に、「やりたいのはこれなんだ!」と最晩年に出演した『チャンス』、そのラストシーンが再現され、それはまさしくピーター・セラーズが天使になった瞬間、私は、「私生活を破壊しつくし、すべての情熱を映画に注いだ者こそが[映画の天使]になれるのだ」……と茫然と感動したのでした。

『チャンス』の老人庭師の印象が強いので、ピーター・セラーズは大往生、との印象があったのですが、わずか54歳で亡くなっていたことを卒然と思い出しました。あらためて黙祷。

 ハードな「ピーター・セラーズ評伝」、ピーター・セラーズ好きの方は必見、あまりピーター・セラーズに思い入れのない方はすこぶる退屈かもしれません。BBCドキュドラマ風の真面目な作りで少々眠気を催しますが、ともかくピーター・セラーズとその周辺の再現ぶりがお見事、オススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Mar-22;