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 Movie Review 2005年6月14日(Tue.)

ミリオンダラー・ベイビー

公式サイト: http://www.md-baby.jp/

 愛に打たれる。ババーン!

『許されざる者』に続いて2度目の米国アカデミー作品賞・監督賞受賞も当然すぎるほど当然。国民栄誉賞、ノーベル賞、フィールズ賞、この世のすべての賞をさしあげたいクリント・イーストウッド新作にして、集大成的傑作でございます。

 私、幼少の頃よりイーストウッド好き、思い起こせば小学生時代、四条大宮“京都コマ・ゴールド”という二番館あり、そこで見た二本立て『突破口!』(ドン・シーゲル監督)+『夕陽のガンマン』(セルジオ・レオーネ監督)、あまりの面白さに腰抜かし、3日続けて見に行って以来、ドン・シーゲル、セルジオ・レオーネ、イーストウッドの映画には格別の思い入れを持っております。

 その後レオーネ+イーストウッドの『荒野の用心棒』『続夕陽のガンマン』、ドン・シーゲル+イーストウッドの『マンハッタン無宿』『真昼の死闘』『ダーティーハリー』『白い肌の異常な夜』『アルカトラズからの脱出』を見て、ますます思い入れ深まり、面白い映画の基準はレオーネ、ドン・シーゲル、イーストウッドにあり。レオーネは1989年、ドン・シーゲルは1991年に死去、それぞれの作風はイーストウッドが見事に受け継いできた、と思います。

 余談ですが、『夕陽のガンマン』についてはそれ以前にテレヴィの洋画劇場で見たことあり、面白かったのですけど、映画館で見たぶちぶちフィルムでも面白さ10100倍! 「映画は、映画館で見るに限る!」、その思いはこのとき生まれたのであったことよなあ。

 閑話休題。ってまあ、『マディソン郡の橋』『真夜中のサバナ』は、よくわかんないんですけど、イーストウッドはコンスタントに面白い作品を監督してきました。

 芸術ぶらない微妙なチープさがレオーネ、ドン・シーゲルゆずりでよいのですけど、しかし『ホワイトハンター ブラックハート』あたりからグン! と上等な雰囲気、今回はさらにステージが上がった感じで、ボクシングを通し、人間が尊厳を持って生きるとはどういうことか? を描き、ますます高尚・高踏・高潔、「偉大な作品」と呼ぶにふさわしい出来上がりでございます。

 その偉大さは黒澤明の集大成的名作『赤ひげ』、あるいはジャッキー・チェン集大成『香港国際警察』に匹敵するかーー? 私は鈍器で後頭部を殴られた、というかモーガン・フリーマンに拳固で顔面殴られたかような衝撃的感動を味わったのでした。腰が抜けて、映画が終わってもしばらく席を立てなかったくらいです。ウソ。大げさに書いてみました。

 偉大とはいえ軽快・明快・簡潔さはいつも通りのイーストウッド、観客がこの映画から得るであろう人生訓も至ってシンプル、「タフなだけでは不十分!」「自分の身は、自分で守らなければならない!」「敵に後ろを見せてはいけない!」…肝に銘じたいものである。

 リアリズム演出も冴えわたっております。『ダーティーハリー』で犯人スコルピオが「殴り屋」さんに「こいつはお吊りだよ!」と殴られまくった昔より、殴り演出が滅法うまいドン・シーゲル監督、その衣鉢を継ぐイーストウッド、ボクシングシーンが素晴らしく、プロのパンチの堅さ・痛さがびんびん伝わってまいります。どこが他の監督と違うのか? 例えばモーガン・フリーマンが素手で殴った後に、「いててて」って感じで手を振る仕草をソッと見せる、そういうきめ細かな演出の積み重ねがリアリティを生んでいるのでありましょうね。

 また、人物造形の見事さも素晴らしく、女ボクサー・マギーの、ホワイト・トラッシュ/ヒルビリーな家族たちには、誰しも「お前ら、殺す! オレが殺す!」と怒髪天を突く思いを抱くのではないでしょうか?

 たいそう悲しい物語、最高のカタルシスがあります。エンドタイトルに流れる、イーストウッド自身による曲が胸にしみいる感じで最高でございます。物語の結末は一見、「反アメリカ的」、「アンチ・ハリウッド的」ですが、イーストウッドの作る映画こそがアメリカ映画、ハリウッド映画なのである。うむ。

 イーストウッドといえば、ジョン・フォード、ハワード・ホークス、ジョン・ヒューストンら、アメリカン・タフガイ監督の系譜に連なる、と思うのですけど、この結末はアメリカン・リヴェラルのシドニー・ポラック監督作『ひとりぼっちの青春』(1969年)を思い出したりして、『ミリオンダラー・ベイビー』はイーストウッドの集大成であり、アメリカ映画の集大成でもあるのだ、と一人ごちたのでした。

 とりあえず原作小説を読んでおります。読み終わりましたらまた。絶対! 見てください。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Jun-14;