クライシス・オブ・アメリカ
全てはあなたの知らないところでコントロールされている! ババーン! 原題は“The Manchurian Candidate”…“満州の候補者”とは?
『影なき狙撃者』(The Manchurian Candidate/ジョン・フランケンハイマー監督/1962年)をデンゼル・ワシントン主演、ジョナサン・デミ監督でリメイク。
オリジナル『影なき狙撃者』、リバイバル上映/ヴィデオではなぜか、プルーストとは関係ないのに(ないですよね?)『失われた時を求めて』と改題されており、そのへんアメリカの陰謀の匂いがプンプンしますが、それはともかく朝鮮戦争で捕虜になり、帰還して英雄となったレイモンド・ショー軍曹は政界に進出。だが彼は……ネタバレですが、ソビエト+北朝鮮に洗脳された暗殺者だったのである! ババーン!
『影なき狙撃者』は私もヴィデオで見まして、暗殺者がまったくためらいなく人を殺す、ジョン・フランケンハイマーらしい暗いリアリズム演出にしびれつつ、洗脳をおこなう共産主義・全体主義の気色悪さとともに、アメリカ国内の反共勢力も負けず劣らず気色悪く、よくわからないところもある、なんとも異様・異常・異質な作品、「西森マリーのUSA通信」によると、1968年、民主党大統領候補ロバート・ケネディ上院議員が暗殺される直前に会っていたのは、ジョン・フランケンハイマーだった! とのことで、アメリカでは何かと話題の政治サスペンスの名作とされているようです。
そしてこのリメイクも、リメイクという皮をかぶって身もフタもない、『華氏911』に匹敵する、ジョージ・ブッシュ現大統領をこきおろす政治映画となっております。
レイモンド・ショー(リーブ・シュライバー)は捏造された記憶によって、湾岸戦争のヒーローに仕立てられ、副大統領候補となる二世議員。今回、彼を洗脳するのはアメリカの軍需巨大企業で、ではどのへんが“Manchurian”かというと、アメリカの巨大企業名が“Manchurian Global”(リンク先は映画のプロモーションで作成された偽サイトです)なのであった! 『影なき狙撃者』で民主主義を殺すのは、共産主義と反共主義でしたが、現代においては軍需巨大企業なのであった。
巨大企業が意のままに操れる盆暗息子を大統領に仕立てるという設定、まさにレイモンド・ショーはジョージ・ブッシュ。巨大企業と母親メリル・ストリープに操られ、清廉潔白・真実一路な政治家(ジョン・ヴォイト)を溺殺したり、極めつけは、母メリル・ストリープと近親相姦におよぶ! これがほんとのマザーファッカー! …って母親との情交は匂わされるだけなんですけど。
そういうわけで、ネオコン/アメリカの手先どもがこの『クライシス・オブ・アメリカ』日本公開をこころよく思わないことは容易に想像できます。デンゼル・ワシントン、メリル・ストリープとビッグ・ネームが出演しているのに、さほど話題にもならず、ユナイテッド・シネマ大津でひっそり公開され、京都では長らく公開されなかったのですけど、ユナイテッド・シネマは住友商事と角川グループ所有、ユナイテッド・シネマ大津は大津パルコにあり、このへんに日本の財界、誰が「ネオコン/アメリカの手先」で、誰がそうでないのか? を読み解くカギがある。適当です。
ともかく、『影なき狙撃者』の知名度が小さい日本でヒットしないのはほぼ確実なのに、京都公開を実現した弥生座2の英断に、私は敬意を表します。…私が見たとき、他の観客は二人でした! このお二人にも敬意を表します。
そんなことはどうでもよくて、大統領選の内幕もかいま見られて面白いのですけど、肝心の、デンゼルが謎を追うスリル+サスペンスがさっぱり盛り上がらず。また「洗脳」に関しても、体内に謎のチップを埋め込む、みたいに現代的なアップデートが施されてますけど、結局「後催眠」的な描写で、トンデモ感ただよってアホらしさ・ウソくささ炸裂、そのへんもスリル+サスペンスをそこなってはなはだしいな、と一人ごちました。
アメリカ政治映画に興味がある方は必見、オススメです。
☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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