ネバーランド
ピーター、そこは夢がかなう場所なんだ。信じれば、必ず行ける。ババーン! ディズニー・アニメや榊原郁恵の舞台で有名な『ピーター・パン』、元々も舞台劇だそうで、2004年はロンドン初演からちょうど100年。原作者ジェームズ・バリを主人公に、実話に材を得ながら自由に改変、舞台劇『ピーター・パン』がいかに発想・構想され、初演されたか? 発想の源となった、四人の男兄弟+彼ら母親との交流を描きます。
ジョニー・デップ演じる著名戯曲家ジェームズ・バリ。映画の冒頭、自作の戯曲初演が総スカンを食らいます。ジェームズ・バリが廊下から観客席をのぞき込み、心に思い描いた[観客席に、雨が降る空想]がそのまま映像となる…など、現実と空想の境界が消えるシーンがいくつかあり、テリー・ギリアムやティム・バートン風の「空想・虚構が本当のリアルである」みたいな? 映画かと思いましたがそうではなく、現実が歴然とあってこその「空想」、「空想/ファンタジー」は辛い現実を生きていくための方便である、というスタンスとお見受けしました。
ジェームズ・バリが親交を結ぶ四人兄弟は、なかなかに気持ちのよい少年たちですが、一人ピーター少年だけはノリが悪い。ジェームズ・バリが、「では、これからこの熊公とダンスを踊ってごらんにしんぜよう」と子供たちの前でおどけて見せても、ピーター少年「熊じゃないよ。ただの犬だよ」と身も蓋もないツッコミを入れる始末。私なら、こっそりケリを入れて泣かしてしまうところ、「熊になりたい犬の気持ちを想像してごらん?」と、うまくツッコミをかわすジェームズ・バリ、ナイーヴでありながら戯曲家・作家として鍛えられ、芯をしっかり持ってる風で、ジョニー・デップの好演もあって魅力的/新鮮なキャラクターとなっております。
ピーターは父親を亡くした悲しみから、幼くして身も蓋もないリアリズムの世界に生きているのであった。「大人はいい加減なことを言う」と、とっくの昔に真実を喝破しております。
戯曲『ピーター・パン』では、「楽しいことを考えれば、空を飛べるんだよ!」とか、「妖精を信じるなら、拍手を!」…みたいな、リアリスト少年なら「吊ってるロープ、見えてるし!」「妖精なんかいるはずないし! コナン・ドイルはだまされても、だまされへんし!」と内心一人ごちざるを得ないシーンが盛りだくさん、しかし、舞台がはねた後、ジェームズ・バリがおそるおそる「…どうだった?」とピーター少年に問うと、ピーター少年ひとこと「マジカル!」と答える。
しかし、大人観客その他が、「おや、この少年がピーター・パンのモデルかい?」と惚けたことを言うのに対し、ピーター少年決然と「僕はピーター・パンじゃないよ。ピーター・パンはこの人[ジェームズ・バリ]だよ」と答える…うーん、素晴らしい。
ジェームズ・バリ奮闘の末、ピーター少年は「子供らしい空想する心」を育んで幸せに暮らしましたとさ、目出度し目出度し…みたいな話でなく、厳しく辛いリアルワールドをきっちり描き、ファンタジーとは何に役立つのか? 空想物語を作ることの意味は? みたいな考察がなされており、またあるいは、「大人になるとはどういうことか?」みたいなテーマもあって、「ピーター・パン症候群」かも知れない私も、色々と考えさせられたのでした。よくわかりませんが。
とにかく、ジェームズ・バリと少年たちの、ベタベタしない交流に私は茫然と感動いたしました。監督はリアルなヒューマン恋愛ドラマ傑作『チョコレート』のマーク・フォースター監督。この『ネバーランド』もリアルな人物描写が素晴らしく、『ピーター・パン』物語とは何か? を考察する視点・演出はいたってクール、また『ピーター・パン』初演の舞台裏も興味深く、オススメです。ちなみにジェームズ・バリの愛犬ポーソスがメチャクチャかわいいので犬好きの方にもオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABAOriginal: 2005-Jan-25;