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 Movie Review 2005年2月3日(Thu.)

東京タワー

公式サイト: http://tokyo-tower.jp/

 恋はするものじゃなくて、落ちるものだ――。ババーン! 道ならぬ恋物語2パターンを描きます。

 黒木瞳演じるは40代の成金有閑マダム、旦那は売れっ子CMプランナー(岸谷五朗)で、青山の一等地セレクトショップを経営しております。

 その若い燕・岡田准一はジャニーズ系(ってジャニーズの人)イケメン大学生、バイトもせず、毎日午後4時頃、黒木瞳からの電話を、自室でグレアム・グリーン読みながら心待ちにする21歳。ラフマニノフやらマーラーを聴いて、「美しいものを見たり聞いたりすると、涙が出ちゃう」とほざくナイーヴな青年です。

 岡田准一クンの部屋にはパウル・クレー画集がこれ見よがしに飾ってありましてね、そういえば『海猫』(森田芳光監督)でもナイーヴな美術青年=仲村トオルがパウル・クレーを愛好しておりましたね。こういうステレオタイプ(紋切り型)なディテイル(細部)が見どころでございます。

 そんな二人が、常に東京タワーが見える、スノッブなホテル/ワインバー/レストランで逢瀬を重ねます。

 黒木「人は、“空気”で惹かれあうものなの」

 岡田「…空気?」

 …とか、

 黒木「結婚してよかったのは、一人で食事しなくてよいことね」

 …とか、小粋な会話を重ねるカップルに比べれば、『プリティ・ウーマン』ジュリア・ロバーツ+リチャード・ギアすら好感が持ててしまうほどです。

 しかしこのカップル、上映時間2時間の大半を平穏・無事に過ごせていたのは、常に東京タワーが見える場所をデートスポットとしていたからでありましょう。

 東京タワーとは、日本が敗戦の痛手から敢然と立ち直ろうとしたド根性の象徴です。『プロジェクトX挑戦者たち〜東京タワー恋人たちの戦い/世界一のテレビ塔・333メートルの難工事』を見ますと、現場を指揮した鳶(とび)若頭は、一目惚れした見合い相手に「鉄塔(東京タワー)完成の翌日、結婚しよう!」と約束したそうで、東京タワー建設の陰には、鳶職人の心意気とロマンチックがあり、あるいは「世界一の鉄塔」建設に奮闘した建築家・技術者たちの夢・熱い情熱があります。東京タワーは、昭和日本人の、汗と涙とロマンの結晶体と申せましょう。

 21世紀不倫カップルが何かにつけ東京タワー周縁をめぐるのは、「私たちのバブルな恋愛は、戦後日本人の頑張りという土台の上にあるのだ」との無意識の自覚(意味不明)があるから、あるいは「私たちは東京タワー建設秘話が持つ“真のロマンチック”には決して到達できないのだ」との諦念があるからに他なりません。彼と彼女は、東京タワー周縁で逢瀬を重ねる、しかし決して東京タワーに上ることはできない…。

 不倫カップルが調子に乗って、東京タワーから離れて「葉山の別荘」で一夜を過ごそうとすれば、コキュ・岸谷五朗の突然の訪問に狼狽せざるを得ない。黒木瞳が「服と靴持って隠れて! こっそり逃げて!」とうろたえまくるのには溜飲を下げましたが、現代不倫カップルは東京タワーが見えない場所で逢おうとすれば、スタイル(美意識)をガラガラと崩さざるを得ない…。

 なーんて妄想をふくらませて時間をつぶしました。それはともかく岡田准一は自殺したと見せかけてパリーに留学。美術学校に入学しており、「どんなモデルをデッサンしても、同じ顔にしか描けない」とウワサの日本人になっております。…って、デッサン下手ってことでは…? とのツッコミは無粋というもの、とはいえご察しの通り「同じ顔」とは黒木瞳の顔らしいのですが、画面に映し出されたデッサン、「に、似てない!」と椅子からすべり落ちたのは私だけでしょうか? そんなことはどうでもよくて、『海猫』と、この『東京タワー』、「ナイーブで破滅的な恋に落ちる若者」=「絵を描く」というステレオタイプには「いつの時代やねん!」とツッコミを入れざるを得ません。

 同じく江國香織が原作(半分?)の『情熱と冷静のあいだ』(中江功監督)の場合、竹野内豊は「絵画修復」を学んでおりましたけど、いつ頃からどのようにして「絵画をたしなむ」=「ナイーヴ」という紋切り型が生み出されたのか? 新たな研究テーマの着想を得た私なのでした。って研究しませんが。

 と、いうか、『東京タワー』という題名で恋愛を描くなら、鳶職人の話の方が絶対! 面白くなるはず。今からでも遅くないので、鳶職人とセレクトショップオーナーの話に脚本書き直していただきたいところです。

 映像はきれいきれいですし、ノラ・ジョーンズの曲も流れ、エンディングテーマは山下達郎、東京おしゃれスポット続々登場、黒木+岡田とは別にもう一組、寺島しのぶと松本潤(ジャニーズ)の不倫・歳の差カップルのドラマも平行して語られまして、そちらは幾分面白いのでオススメです。

(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Feb-2;