京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 05 > 0408
 Movie Review 2005年4月8日(Fri.)

ロング・エンゲージメント

 不思議な愛の直感が解き明かしていく奇跡のミステリー。“直感”を信じる。それは、“奇跡”に耳をすますこと。ババーン! 『アメリ』のオドレイ・トトゥ主演+ジャン=ピエール・ジュネ監督コンビ新作。

 オープニング、激しい戦闘が行われたあととおぼしき戦場の風景、柱に釘で打ち付けられた手のひらがひとつ、それは、破壊されたキリスト像であることが示され、続いて、自ら手のひらを撃ち抜いた5人の兵隊が素速いテンポで紹介されます。

 お! この塹壕の風景は、スタンリー・キューブリック『突撃』の舞台となった、第一次大戦の西部戦線と同じ場所か?

 西部戦線はあまりに悲惨な戦いで、精神に異常をきたす兵隊、あるいは自ら手のひらを撃ち抜き、負傷兵になって戦線を離脱しようとする兵隊が続出した…という伝説を私は卒然と思い出したのでした。

 それはともかく今回、『アメリ』と似たキャラクターのオドレイが、離ればなれになってしまった恋人を、全身全霊で捜し求めるというお話、ミステリー仕立ての話がグンバツに面白く、犬がブーッとオナラをしたら「幸福の予兆よ!」みたいなディテイルの豊かさに目をみはり、そして何より、[反戦]というテーマがビシッとつらぬかれているのが素晴らしいです。

 戦争は、アメリのような不思議ちゃんにも圧倒的な不幸をもたらすもの、不思議ちゃんも無縁でいられないものなのですね、あらためて戦争反対! …の心持ちを新たにしつつ、茫然と感動しました。アメリ meets 西部戦線。

 語り口も『アメリ』と同じ、『アメリ』の場合、少女趣味を解せぬ私にはピンと来ぬところが多かったのですが(ツール・ド・フランスの映像には興奮したものの)、今回は残虐きわまる戦闘場面があって、男子的にもオッケーです。

 ことに、野戦病院のシーン、元々飛行船の倉庫だったようで、そこが爆撃され、あああーーー! 不発弾の信管に、飛行船が近づいていく! 逃げろー! …という、残酷なサスペンス描写に震えました。こういう、本筋にあまり関係ないサスペンスはスピルバーグがよくやりますけど、ジュネ監督の場合、残酷さ・意地悪さが半端でなく、私好みでございます。

 オドレイは、戦死の報が届けられようが何しようが、彼氏が生きていることを信じて疑わない……というのではなく、ときおり「もし列車がトンネルに入るまでに車掌が来たら、彼は死んでる!」などの「願かけ」で疑念を押さえ込みながら、彼氏の捜索を続ける姿に、私は茫然と涙したのであった。『堕天使のパスポート』も素晴らしかったオドレイ・トトゥ、またしても好演。

 映像がこねくりまわされ、現在・過去をいったりきたりで話がよくわからないところもありましたが、『アメリ』の主演・監督コンビが、このご時世に、まっとうな反戦映画を撮ったのが素晴らしいな、というか、『アメリ』みたいな映画を期待したのに、えげつない戦場の風景を目の当たりにして、げんなりされる方が続出すれば望外の喜びです。バチグンのオススメ。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Apr-8;