2046
その不思議な未来(2046)では ミステリートレインが動き出し アンドロイドが恋におちる。ババーン!
なんでもウォン・カーウァイ監督は、完成台本を作らずに映画を撮っていくそうで、そうなりますとどうしても当初の構想よりどんどんズレて、映画づくりがデスマーチ(Death March=死に向かう行進)と化し、結局いつまでたっても完成しないハメにおちいる可能性あり、この『2046』も、約5年前にキムタク起用して撮影開始したものの、結局興味をなくして途中で投げ出して、先に『花様年華』を完成させちゃった、というところでございましょうか。
それでは面白くないのがキムタク事務所サイド、「キムタクがウォン・カーウァイの映画に出演!」といいふらしたものですから、なんとしても完成させてもらわないと困る! と、ねじこまれて、それならしょうがないなぁ、と追加撮影して、CGも加えて一本の映画として完成させた(つもり)なのが、この『2046』ではないでしょうか? と、邪推・憶測をたくましくしてみました。
では、これがまったく面白くないかというとそうでもなく、って、キムタク主演の近未来を舞台にした「超一級のエンターテインメント超大作」を期待するとガッカリされると思いますが、『花様年華』で展開されたものと似た映像美が、今回は、トニー・レオン+チャン・ツィーイー、あるいはトニー・レオン+フェイ・ウォン、あるいはトニー・レオン+コン・リーで展開します。
唐突な未来社会風景は、『花様年華』におけるアンコールワットみたいなもんで、そもそも近年ウォン・カーウァイ作品はすでに壊れてしまっている、というか、ゴダール作品の楽しみ方に似て、なんだかよくわからないけれども圧倒的にクリアかつ美しい映像と音楽に退屈を催しつつ、たまにハッとさせられておっと、よだれが垂れかけてましたよ、あぶないあぶない、という感じが気色よく、とりあえず『ブエノスアイレス』や『花様年華』がお好きな方はお楽しみいただけるのではないかと。
それと、こういう無理矢理完成させられてしまった(と感じられる)作品には、不思議な魅力がある、と私は思うのです。たとえばヴィム・ヴェンダース大作『夢の涯てまでも』、オープニングの圧倒的なカッコ良さがどんどん失速して、何だかよくわからない結末をむかえて面白いのか面白くないのかよくわからない、しかしオープニングは素晴らしい作品、とか、デヴィッド・リンチ『マルホランド・ドライブ』、テレヴィの連続シリーズとして構想されたけれども、シリーズ化されず宙ぶらりんになっていたのを、アッとおどろく思いつきで一本の映画として仕上げたらこれが素晴らしかった! リンチ最高! …という作品もあったり、この『2046』も当初の構想がズレにズレまくった末に、ムリムリ完成させられた作品だと邪推しますが、不思議な、壊れた映画の魅力があります。かどうかは、ご覧になったみなさんに判断していただくとして。
そんなことはどうでもよくて、『花様年華』同様、「動くファッション雑誌」みたいな雰囲気で、香港ミッド・センチュリー・モダンな美術、衣装がたいそうカッコよく、トニー・レオン+チャン・ツィーイーのパートなんか、若尾文子主演の50〜60年代大映映画っぽい、濃密でコッテリとエロい感じで素晴らしいです。
宣伝と、実際の映画がまるで違う感じなのも、「スプロイテーション・フィルム」っぽくてよろしいんじゃないでしょうか。よくないか。
こんな映画が京都みなみ会館でなく、東宝公楽で見られるなんて……と一人ごちつつ、チャレンジャーの方にオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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