ディボース・ショウ
結婚――この世で最も危険な約束。ババーン! ジョエル & イーサン・コーエン兄弟新作は、ジョージ・クルーニー+キャサリン・ゼダ・ジョーンズという、色々賞をもらってぐんぐんキャリアアップ中の大スター共演で贈る艶笑喜劇です。原題は“Intolerable Cruelty”=「耐え難い残酷さ」。ふーん。
さて IMDb のトリヴィアを見ますと、「ジョージ・クルーニーがこの映画で着ているスーツは、ケーリー・グラントが『無分別』(Indiscreet: 1958 年・スタンリー・ドーネン監督)で着ていたものほとんどそのまんま」(60 へー)だそうで、演技もケーリー・グラントっぽいです。って最近、そのあたりの古い映画を見てないので適当ですが、ケーリー・グラントが得意とした、頭のおかしな男女が非倫理的行為をくり広げる、“スクリューボール・コメディ”の現代的な再生が目指されているのであった。
と、申しますか、『ブラッド・シンプル』=スリラー、『ミラーズ・クロッシング』=ギャング映画、『バーバー』=フィルム・ノワール…などと同様、コーエン兄弟による、古くさいジャンル映画を、再構築し、現代によみがえらせる路線で、「スクリューボール・コメディをコーエン兄弟が撮ると、こうなる!」って感じ、コーエン兄弟ファンの方にはバチグンのオススメ、そうでない方は「せっかくクルーニー VS ゼダ・ジョーンズという旬のスター共演なのに、今ひとつロマンチックさゴージャスさが足りませんな」と、思われるかもしれませんね。
っていうか、そもそもスクリューボール・コメディは、その代表的監督ハワード・ホークス『赤ちゃん教育』 『ヒズ・ガール・フライデー』 『教授と美女』に顕著なように、エッチではあっても、ロマンチックさやゴージャスさはむしろ否定されたりずらされたりするもので、マルクス兄弟的な不条理ギャグが尊ばれますので、って、ホントはよく知らないのですけど、旬のロマンチックスターが阿呆さを炸裂させる、少々意地悪な視点で撮られるのが「スクリューボール・コメディ」ではなかったか? って適当です。
例えば『ディボース・ショウ』の、「変な名前の男が手がかりだ!」みたいなセリフ、あるいは、ジョージ・クルーニーがいままでの金儲け目当て弁護士活動を反省するのですが…みたいなところにスクリューボール感が漂って、コーエン兄弟、最高! って感じでございます。
さてスクリューボール・コメディを蘇らせてみると、「結婚」すら金儲けの道具にしてしまうアメリカ社会の、精神の貧困さ=耐え難い酷薄さが暴かれたのであった。と、申しますか、コーエン兄弟には珍しく大金持ち美男美女が主人公ですが、見た目の華やかさと裏腹に、言ってること、やってることの可笑しさ、阿呆さは『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』と同じでございます。貧乏人も金持ちも、美男美女も不細工な人も、善人も悪人も、ヘンテコである点において平等なのが、コーエン兄弟の素晴らしいところですね。ジャンル映画を撮って、そのジャンルのお約束を満たしつつ、なお自らのスタイルを崩さないコーエン兄弟、さすがのスタイリッシュさでございます。
それはともかく、ジョージ・クルーニー+キャサリン・ゼダのキャラがやはり秀逸で、お互い本心は惹かれあっているのに、職業的ポリシー(?)のため、ついつい騙し騙さざるを得ないのが面白いです。『クライング・ゲーム』で語られていた、カエル君とサソリ君の寓話を思い出したりしました。
少々脱線ですが、ご紹介させていただくと、ある日、サソリ君が大きな河を渡ろうとしていたところ、カエル君が通りかかりました。
サソリ君「君の背中に乗せてボクを向こう岸に渡してくれないかい?」。カエル君「いやだよ、君はその大きな毒針でボクを刺すじゃないか」。サソリ君「ははは! 馬鹿だなあ、君を刺すと、ボクも溺れてしまうんだよ! そんなことするものか。大丈夫だよ」。
カエル君はしばし熟考、それではとサソリ君を乗せて、河を渡り始めました。しばらく進むと、カエル君は背中に猛烈な痛みを感じたのです。なんと、サソリ君が背中を刺しているではありませんか。
カエル君「…どうして、そんなことするんだい!? 二人とも溺れてしまうんだよ」
サソリ君「…ゴメンよカエル君。でも仕方ないよ、これがボクの性(さが)なんだから…」ぶくぶくぶく…。
…さて、サソリ君が河を渡るには、最低何回往復しなければならないでしょうか? …ではなくて、さて、この話の教訓は? というお話でしたね。つい背中を刺してしまって溺れつつある国、それがアメリカなのでありましょう。ってよくわかりませんが、スクリューボールコメディとは「頭のおかしい人」のコメディでしたのに、現代に再生させてみると、そういう頭のおかしい人はアメリカにおいては特殊な人々ではまったくなくなってしまっていた、って感じ?
そんなことはどうでもよくて、以前のコーエン兄弟作品は、スピルバーグの映画みたいに、技法・技巧、華麗なテクニックの披露に熱中気味、妙に間延びしてしまう感じでしたが、『オー・ブラザー!』『バーバー』と、省略が効きまくって展開はスピーディさを増し、今まさにコーエン兄弟は絶頂期・円熟期を迎えております。どの作品も面白さバチグン、今回の『ディボース・ショー』も、スクリューボール・コメディにふさわしい超特急の展開でお楽しみいただけるかもー?
とりあえず『赤ちゃん教育』『ヒズ・ガール・フライデー』は、超々バチグンのオススメですので、未見の方はぜひポチッてくださいませー。
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