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 Movie Review 2004・2月17日(Tue.)

ニューオーリンズ・
トライアル

公式サイト: http://nt.eigafan.com/

 ニューオーリンズの証券会社で、マシンガン乱射事件が発生、11 人が射殺され、容疑者は自殺。その 2 年後、被害者遺族が、マシンガン製造会社を相手どって損害賠償請求を起こします。アメリカが注目する陪審裁判が、いま開廷する! ババーン!

 原作は『評決のとき』『レインメーカー』など、アメリカ訴訟社会の裏側、法曹界の内幕を紹介してきたジョン・グリシャム、今回は、日本人・私には馴染みの薄い「陪審コンサルタント」という職業に焦点を当てます。

 パンフレットによると、O. J. シンプソン事件や、黒人ロドニー・キングに白人警官が殴り蹴るの暴行を加えた事件などの無罪判決は、「陪審コンサルタント」の影響が大きかったとか。法廷に陪審員候補が集められ、原告側/被告側が「この人はオッケー、この人は拒否」という具合に 12 人の陪審員を選出する、その課程でアドバイスするのが「陪審コンサルタント」で、ここでの陪審員の人選が、評決の行方を左右するのであった。

 今回ジーン・ハックマン演じる凄腕コンサルは、何十人ものスタッフを駆使し、陪審員候補者の経歴を調べ上げ、緻密なプロファイリングをおこなうばかりか、陪審員の弱みをにぎって脅しをかけるという不正義も辞さず。大企業の潤沢な資金を使って、やりたい放題です。

 対する原告の弁護士はダスティン・ホフマン! リベラルな市民派弁護士で、ただただ、陪審員の良心に訴えるのみ。

 ハックマンとホフマン、初共演だそうです。アメリカ映画のほとんどは政治映画なので、ハックマン=共和党、ホフマン=民主党なので、これまで共演作がなかったのかしら? って適当ですが、今回、支持政党の違いを超えてガップリ四つに組んでの初共演・初対決が実現したのであった。ババーン!

 と、ワクワクのハックマン VS ホフマン対決で、実際二人が火花を散らすシーンもありますが、ここに思わぬジョーカーが紛れ込みます。「陪審員? なんかー、うざったいしー、って感じ? なんとか陪審員にならずに済む方法はないものか?」と、ごちながらも選ばれてしまったジョン・キューザックと、原告・被告双方に、「陪審員の評決売ります! For Sale」というハガキを送りつけ、金を出したら評決を思うままに操ってしんぜよう、という謎の女レイチェル・ワイズである! ババーン!

 ハックマン VS ホフマンの対決は、金持ち VS 正義という対立で、そういう対立を描いて「法の下の平等」というアメリカの理想を描く作品はこれまでも多く作られてきました(『エリン・ブロコビッチ』とか?)。この作品では、2 枚のジョーカーを紛れ込ませ、金持ち VS 正義の対立を攪拌し、別のテーマをあぶり出すのであった。それは、「銃社会アメリカ批判」であります。なんでも原作は「たばこ訴訟」の話なのを、映画化にあたって「銃問題」に変更したとか。『ボウリング・フォー・コロンバイン』で描かれたテーマを引き継ぐアクチュアルな作品と言えましょう。

 と、いうか、アメリカで頻発する銃犯罪に対し、『ボウリング・フォー〜』はその原因を「白人の臆病さ」とし、「全米ライフル協会」をその象徴として扱いました。今回はそれを踏み越え、政治的立場・人種を越えて、銃器メーカーの利潤追求姿勢をまず罰せよ、と主張しています。と思う。

 共和党リバータリアンのジーン・ハックマンがこういう作品に出演するということは、ひとつには、陪審コンサルタントのやり口は政府による個人情報管理の手法と同じ、許せないというところでしょう(ハックマンが出演した『エネミー・オブ・アメリカ』の NSA(米国家安全保障局)を思い起こそう)。さらにもうひとつ、これまで銃規制に反対してきた共和党内に、一定の規制もやむなし、という潮流が生まれているのではなかろうか? と、私は、薄い政治知識をもとに一人ごちたのでした。

 そんなことはどうでもよくて、監督は『デンバーに死すとき』『コレクター』『サウンド・オブ・サイレンス』のゲイリー・フレダー。へなちょこサスペンスを作ってきた監督さんですが、今回は、原作の功績もありましょうがトンチの効いた脚本(『ラウンダーズ』のブライアン・コペルマン+デビッド・レビンなど)に助けられて、一級の娯楽政治映画をモノにしました…って、お得意のはずのサスペンス描写になると、途端にどうでもいい感が漂ってしまうのは否めないのですが、ハックマン VS ホフマン+キューザック+レイチェル・ワイズがかなり良いし、その他ブルース・マッギル、ブルース・デイビソン、ジェニファー・ビールスなど、わき役も見覚えのある顔ぞろいでバチグンのオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2003-Feb-14;

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