堕天使のパスポート
翼を手に入れて 幸せになりたい。ババーン! 『ヒーロー/靴をなくした天使』『がんばれリアム』『ハイ・フィデリティ』など、地味ですけれどいい仕事連発スティーヴン・フリアーズ新作は、ロンドンが舞台の移民たちの物語。ロンドンを舞台にしていながら主要キャストは異民族、ちょっと社会派、ラヴロマンスありミステリー仕立てもあるロンドンの裏側を描いたドラマでございます。
主人公オクウェ(キウェテル・イジョフォー)、どうやらアフリカからやってきた不法就労する移民、昼はタクシー運転手、夜はホテル夜勤フロントマン、一日中はたらく日々。
「どうやら」、というのは説明的なセリフやシーンが極力排されていて、登場人物の行動を追っていればだんだん彼らの境遇が見えて来るというよくできた脚本。スティーヴン・フリアーズのタイトで抑制されたタッチも見事、奇をてらったMTV・CM風演出の対極にあり、それでも(それでこそ)手に汗握るサスペンスが生まれており、私は『マイ・ボディガード』のトニー・スコット監督にみならってほしい、と一人ごちたのでした。
トニー・スコットのことはどうでもよくて、閑話休題。主人公オクウェは、同じホテルの掃除人、トルコからの移民シェナイ(『アメリ』のオドレイ・トトゥ)とアパートの鍵をシェアしており、オクウェは夜勤でシェナイは日勤、すれ違いの日々。
どうやらオクウェはトルコ美人シェナイを好いていますが、シェナイは「あんたとは鍵を受け渡すだけの関係よ! 話しかけんといて! 人に見られたら困るわ!」とつれない態度、きっとこのオクウェとシェナイ、ロンドンの片隅で虐げられた者同士の悲痛なラヴロマンスが展開するのであろうか? とタカを括っていると…って、悲痛なラヴロマンスも展開するのですが、ある夜、ホテル勤務でオクウェ、トイレの詰まりを直していたところ××(ネタバレ自粛)を拾ってにわかにミステリー風になる…かというとそうでもなく、相変わらず淡々としたタッチで、不法移民のきびしい現実を描き出しながら、オクウェとシェナイの間に愛が芽生え、オクウェの過去が少しづつ語られ、ホテルを舞台にした犯罪が明らかになっていくという、パズルのピースが埋められていくような…って思わず紋切り型の表現を使ってしまいましたが、まことに素晴らしい脚本、演出でございます。
オクウェ、演じるはキウェテル・イジョフォー、『アミスタッド』『ラブ・アクチュアリー』に出ていたそうですが憶えていません。いつも困ったような顔して黙々とはたらき続ける、高い知性と倫理の持ち主を好演。オドレイ・トトゥは、『アメリ』とは打ってかわった悲惨な役どころで可哀想過ぎる!
こういう貧乏人、社会から忘れられた人々、虐げられた人々を取り上げて一ヶの立派な娯楽作品として成立させてしまうところがケン・ローチ、マイク・リーなどイギリス映画のすごいところ、スティーヴン・フリアーズも信頼できるイギリス監督のひとりとなった傑作。バチグンのオススメです。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)