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 Movie Review 2003・9月5日(FRI.)

永遠の
マリア・カラス

 1977 年に亡くなったマリア・カラスの最晩年を、虚実とりまぜ描きます。監督は、あら懐かし『ロミオとジュリエット』(1968)『ブラザーサン・シスタームーン』(1972)のフランコ・ゼフィレッリ。ゼフィレッリは 96 年『ジェイン・エア』、98 年『ムッソリーニとお茶を』など、コンスタントに新作を発表しておりますが、私は、81 年『エンドレス・ラブ』で脱力して以来、メチャメチャ久しぶりでございます。

 して、この『永遠のマリア・カラス』、今年 80 歳ゼフィレッリの老人力が炸裂する快作でございます。ゼフィレッリは、オペラの演出にも精力的に取りくまれ、というか、欧州ではオペラ演出家としての方が有名、55 年から 64 年にかけてマリア・カラス主演の 5 本のオペラを手がけられたそうです。そんな公私ともカラスと親しかったゼフィレッリが、実現できなかったプロジェクトを映画でやっちゃった、というのがこの『永遠のマリア・カラス』である! ババーン!

 して、そのプロジェクトとは、富豪オナシスと別れて意気消沈、パリで隠遁生活を送っていたマリア・カラスを復活させようというもの。カラス絶頂期の音源を用いアテレコでオペラ映画を撮るというプロジェクト、カラスは「もう、私の声は死んでしまったわ!」といったんは拒否しますが、『カルメン』は歌ったけれども演じていない、カルメンだったらやりましょう、と乗り気になって、若い男前俳優にリスペクトされたりして、セレブの輝きを取り戻していくのでした…というお話。

 カラスを引っ張り出すプロモーター、ジェレミー・アイアンズはゼフィレッリの分身でありましょう。J ・アイアンズはゲイという設定で、映画の冒頭パリの若い男前画家といきなり仲良くなったりして、私は、ゼフィレッリの妄想の突っ走りぶりに軽い目眩を憶えたのでした。

 それはともかく、ゼフィレッリは実際に過去音源を使用し、カラス主演で『椿姫』映画化を持ちかけたそうです。現実のプロジェクトは頓挫したわけですが、この『永遠のマリア・カラス』では『カルメン』映画化は見事に完成し関係者試写でも大好評で迎えられるのであった。しかし、ネタバレですが、映画が完成してカラス自身も大喜びだったものの、芸術家の気まぐれか、突如カラスは『カルメン』の破棄・封印を要請します。

 まず、パゾリーニの『王女メディア』を見てもわかるように、歌わなくてもマリア・カラスの存在感は圧倒的であります。ゼフィレッリは、カラスの女優としての資質を高く評価しており、例えアテレコでもカラス主演のオペラ映画は価値あるものだ、と考えていたのでしょう。しかしカラスは、それを拒否する。自分自身の声だとしてもそれは真実ではない、と。

 ゼフィレッリは、「何がカラスをカラスたらしめていたのか?」を描くためにこの作品を撮ったそうで、すなわち、ひたすら真実を追い求め、虚構を許さず最高をめざす自分のブランド・イメージを保ったからこそ、カラスは偉大な芸術家であった、というわけですね。

 カラスの「フィルムを破棄せよ」との要請に唯々諾々と従う J ・アイアンズの姿は、所詮自分はカラスに較べれば二流であり、虚飾にまみれていたのだなあ、そやけど、女優としてもカラスは最高やったのに残念無念、とゼフィレッリの述懐がこめられているのであった。

 それはともかく、マリア・カラスの声、ファニー・アルダン主演で撮影された映画中映画『カルメン』は、

 ゼフィレッリ さすがヴィスコンティの 弟子ですな

…と一句ひねりたくなる素晴らしさですが、この素晴らしい出来に対しても、虚飾の匂いを嗅いだなら駄目出ししなければ、一流の芸術家には決してなれないのである。

 マリア・カラス好きの方からすれば、色々文句を言いたくなりそうな作品でしょうが、一流になれなかった老芸術家の繰り言としてご覧いただければよろしいかと存じます。ファニー・アルダンの衣装は、カール・ラガーフェルドが担当したそうでバチグンにカッコいいんですけど、やっぱりシャネルは着る人を選びますね、と私は一人ごちました。オススメ。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Sep-4;

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