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 Movie Review 2003・11月7日(FRI.)

名もなき
アフリカの地で

 1938 年。ユダヤ人・少女レギーナと母イエッテルは、ナチス台頭ドイツから、父ヴァルターを追ってアフリカはケニアへ逃れるのでした。ババーン! 第二次大戦中ユダヤ人一家、アフリカでのあれやこれやを描くドイツ映画です。

 何と言っても素晴らしいのは、ドイツ人はドイツ語をしゃべり、ケニア人はスワヒリ語(かな?)をしゃべり、イギリス人は英語をしゃべることで、例えば『コレリ大尉のマンドリン』、イタリア人兵士とギリシア娘のロマンスなのに、なぜか英語で愛を語るに「ふざけるのはタイトルだけにしてください」と一人ごち、または『スパイ・ゾルゲ』、ナチス同士が英語で会話する不条理さに脱力した私は、「名もなきアフリカの地で」の、当たり前っちゃあ当たり前のリアリズムに呆然と感動したのでした。

 ユダヤ人父・母・娘が異文化に触れ、それぞれ異なる反応を示すのがテーマのひとつ、父は必要に迫られスワヒリ語とつきあい、母は拒否し、娘はすんなり順応する、という具合、「言葉」が父・母・娘のキャラを立たせる「小道具」として機能し、父性とは何か? 母性とは何か? と考えてみるのも一興です。

 というか、異文化に敬意を払うには、まず言葉を知ることから始まる、すなわち「文化」=「言葉」、その辺をキッチリ押さえ、作り手の真摯な態度がうかがえます。監督はカロリーヌ・リンク、『ビヨンド・サイレンス』では、耳が聞こえない夫婦が子供を育てる「優性思想」批判の映画でもあり、今回はユダヤ人のお話、ヨーロッパで差別されたユダヤ人が、アフリカではケニア人を見下す、みたいな微妙なところもキッチリ描く「差別」にこだわる真面目な監督さんでございますね。って前作『点子ちゃんとアントン』は見逃したのでよくわかりませんが。

 米国アカデミー賞外国語映画賞受賞作、ということなので、ってことでもないですけど、「ユダヤ人はこんなに苦労しました、家族は一致団結してがんばりました」みたいなババ泣き大感動作かと思いきや、父・母・娘がてんでバラバラにアフリカと対峙する、いたってクールなお話です。久しぶりに再会したというのに、妻は、インテリ弁護士・夫のアフリカでの無力ぶりに愛想を尽かし、夜の営みを拒否する、とか。

 原作は、シュテファニー・ツヴァイクの自伝的小説、実話にもとづくと言っても普通なら、妻のアフリカに対する態度が一変する出来事をドラマチックに捏造(でつぞう)するところ、何だかよくわからないうちにアフリカ好きに変わるのがいかにも実話、「Based on a true story」と言いながらウソ・大げさ・まぎらわしい作品が多い中、この点でも好感を持ったのでした。

 ともかく、他国の言葉を会得すれば、差別感情は消え、異文化コミュニケーションがバッチリ成立することを鮮やかに示すラストシーンに私は呆然と感動、とはいえ、2 時間 21 分もありまして、ケニアの圧倒的な風景を長々とお楽しみいただけるのですけど、そもそもドラマ的には第二次大戦が終結したなら、さっさとドイツに帰るべきところ、そこからまたひと悶着あったり、アレコレ盛り込み過ぎ?

 そんなことはどうでもよく、ユダヤ人一家に料理人として雇われたケニア人・オウアが最高です。当時、世界で最も進んだ文明を誇ったドイツ人に対し、ケニア人もまた高い知性の持ち主であることを無理なく納得させる、見事な存在感です。一家とオウアの別れ・再会・別れが涙を誘います。いやー、ケニアに行きたくなっちゃいました。映画を見てアフリカ料理が食べたいなー、と思われた方には西京極の「Ashanti」がバチグンのオススメです。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-nov-4;

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