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 Movie Review 2003・6月20日(FRI.)

WATARIDORI

公式サイト: http://www.wataridori.jp/

『ミクロコスモス』のジャック・ペランによる、世界の渡り鳥大全集。J ・ペランって、コスタ・ガブラスの『Z』『戒厳令』のプロデューサーの人なんですね。ふーん。

 それはともかく何といっても、カメラが、渡り鳥たちのほんの数 10 センチの距離で共に飛んでいく映像が凄い! これぞ、「映像のスペクタクルである。うむ」と一人ごちたのでした。

 そういえば、映像の「スペクタクル」というものを久しく見ていませんでした。かつては「うわー、すげースペクタクル! どうやって撮ったんやろ?」と映画少年の心を鷲掴み、「舞台裏」に興味津々な特撮映画がいっぱいありましたけれど、近頃は撮影が面倒だったり難しかったりするシーンは、コンピュータ・グラフィックスのお世話になる映画ばかりで、「あ、なんや CG か。ふーん(と、鼻クソをほじる)」って感じで、こう、ブワッとアドレナリンが吹き出ることがない。

 して、この『WATARIDORI』、ただ飛翔する渡り鳥の映像を延々と見るだけの映画なのですが、「おおおお! どうやって撮ったんや!」とのけぞりました。努力の跡が、ひし、ひし、と感じられます。CG の人も苦労はしているのでしょうが、「苦労の方向」が違うと思うのですね。

 ネタバレですけど、この『WATARIDORI』、少人数スタッフが地味に時間をかけて撮ったドキュメンタリーと思いきや、製作費はなんと 20 億円で、スタッフも割と大編成のようです。映像を見ていて、鳥が、カメラが近づいてもビックリして逃げ出さないのが不思議だったのですが、登場する鳥たちは、卵の頃から人間に慣らされた「仕込み」なのだそうです。

 やはり「映像のスペクタクル」を実現するには、手間暇かける「仕込み」が必要なんである。周到に仕込んで、「せーの!」の一発勝負で撮影する、そういう「イヴェント性」こそが、我々にスペクタクルを感じさせるのである。「事件性」と言ってもいい。事件は現場で起きているのだ、モニターの中ではない、と申しましょうか。

 最近の時流なら、「鳥を撮りたい」といえば、「ほな CG で」って感じで(例えば『ハリー・ポッター』の梟)、CG がコスト削減に役立っており、今後、最初からデジタルで撮影する HD レコーディングも普及していくことと存じますが、そうなると映画撮影の「イヴェント性」「一発勝負性」「事件性」はますます失われていくことになります。ド派手に宣伝し、WEB サイトなど各種メディアをあげて映画を「社会現象」に仕立ててヒットさせる「イヴェント・ムーヴィー」が続々と公開されておりますけれど、そういう「興行のイヴェント化」は、CG やデジタル技術の利用によって、映画の中身それ自体のイヴェント性がどんどん稀薄になっているからではないか? と、私は卒然と思い当たったのでした。

 って、そんなことはどうでもよくて、渡り鳥が飛ぶ、その映像のスペクタクルに身をまかせ、国境のない渡り鳥がいかに自由であるか? とか、世界を鳥の目で見つめてみれば、人間って本当に残酷な阿呆ですな、などと思いを巡らせてみるのはいかがでしょうか? 大スクリーンで見るべき映画だと思いますけど、京都での劇場上映は終わっちゃってますので、DVD ででも見てくださいな。メイキング映像特典とか、きっと面白いと予想。

 ほんの数カット、CG が混じってて思いっきり脱力。なれど、カメラが近づこうが目もくれずひたすら目的地をめざす鳥たちの姿は、ゴールをめざすロードレーサーの集団にも似て、圧倒的な感動を呼びます。バチグンのオススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Jun-20;

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