北京バイオリン
北京ヴァイオリン
『さらば、わが愛〜覇王別姫』の陳凱歌(チェン・カイコー)監督最新作。チュン少年は死んだ母親が遺したバイオリンを手に、父とともに北京に上京。田舎者の父=純朴・真面目なリウは、必ずや息子にバイオリンで名をあげさせんと大奮闘します。果たして父子の運命やいかに? ババーン!
さて、現代中国は、市場経済を導入しつつ社会主義建設を進めるという実験に取り組んでおります。市場が活発となれば、貧富の差は拡大し、都市と農村の格差も開いていく。かつての中国なら、地方出身の「天才バイオリン少年」は、たやすく「国家英雄」になれたのでしょう(憶測)。しかし現代では、親の寄付金の額がコンクールの優勝者を決めるという拝金主義が横行し、金とコネがなければどうしようもない状況。
ところで陳凱歌が、ロンドンで撮った前作『キリング・ミー・ソフトリー』は結構面白かったんですけど、わざわざ陳凱歌が撮る話でもないやん? と思ったものです。今回は、堂々と「中国の現在」に向き合っており、現代中国に対する批判が展開されます。というか、自戒の念がこめられているのではないでしょうか。
高名な音楽教授(陳凱歌自身が演じる)は、教え子の売れっ子バイオリニストに言います。「金のための演奏ばかりするな」と。このセリフは、陳凱歌に跳ね返ってくる言葉ではありますまいか? 比較的、潤沢な資金で、日・中・仏・米 4 カ国合作の『始皇帝暗殺』を撮り、欧米資本の『キリング・ミー・ソフトリー』を撮り、と、国際的な評価を得る仕事をするのも一つの成功ですが、自分の国の、名も無く貧しい民衆を笑わせ泣かせる映画を撮るのが本当の芸術家なのだ、と、陳凱歌は『北京バイオリン』で宣言しているのであった。適当。
「中国第 5 世代」の、もう一人の代表的監督の張芸謀(チャン・イーモウ)も、以前は、いかにもヨーロッパでウケる耽美的な作風でしたが、『秋菊の物語』あたりから、「人情の機微」を描く、「庶民のための映画」を作るようになりました。今回、陳凱歌も同様の転身を遂げております。陳凱歌なので安心しきってたんですけど、これが泣ける! こんなベタな話でおいおい泣くのはどうか? と思いますけど、きっちり中国社会が抱える矛盾を、無声映画を思わせるタッチでわかりやすく描いてますので、ベタでもいいじゃないですか! よくわかりませんが、陳凱歌の今後の展開に期待。
父リウを演じるのは、『秋菊の物語』で鞏俐(コン・リー)の旦那を演じていた劉佩奇(リウ・ペイチー)。この、お父さんがバチグンの可愛さ・素晴らしさで、伴淳三郎かと思いました。チュン少年も最高で…うううう、思い出しただけで泣けてきました。
演出は、ザックリと大胆に省略を効かせつつ、例えば冒頭、父リウは、息子のバイオリン演奏に対するお礼を「いや、そんなことしてもろたら困ります」と固辞するのに、息子が受け取るのは全然オッケー、というシーンにすでに張られている細心の伏線などが見事であり、妙にソフトフォーカスがかかるシーンとか映像も美しく、陳凱歌最高! バチグンのオススメ。
☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Jun-18;