CUBE 2
目覚めてみると、無機質な立方体の部屋の中。前後左右上下に扉がありますが、迂闊に部屋を移動すると、残忍な死が待っている…というヴィンチェンゾ・ナタリ監督 の『CUBE』は、異様な緊張感に満ちた、なかなかのスリラー快作でしたが、その設定を引き継ぎ、さらに“キューブ”がパワーアップ! 前作では語られなかった、“キューブ”の策略が明かされる! ババーン! …って、言われましてもですね、前作の美点は「誰が、何のために“キューブ”を作ったのか?」という謎を、謎のままゴロリと放り出していた、というか、「そんなことはどうでもいい」としたところ。それを今さら明かされてもねぇ、って感じでございます。というか、なぜこんな映画を作ったのかが最大の謎。
いやいや、取り柄がないわけではなく、前作では、「素数」「因数分解」「座標系」などが重要なキーになっており、数学が苦手な私は、「一体どういう仕組み?」と頭がグネグネになり、それがまた気色よろしかったのですが、今回は、現在の自分が未来/過去の自分を見ている…という歪んだ時空間=「ハイパー・キューブ」なる概念が導入され、ヴィジュアルとしてわかりやすく、数学苦手な私も大満足! …なワケがありませんね。今度はいきなり四次元ですか? 前作程度の仕掛けなら、どこかに存在していてもおかしくない、リアリティがあったのに、今回は荒唐無稽の SF の領域に突入、一気に「どうでもいい感」がパワーアップ、ハラハラドキドキが消え失せ、思考停止状態で鑑賞できるようになっております、というか、前作はカナダ映画でしたが、今回、脚本/監督は前作とは関係なく、アメリカ映画となっております。なるほど、アメリカ人には「素数」や「素因数分解」は、難し過ぎたのでしょうね。ってよく知りませんが。
さらに、前作の鮮やかな殺しのテクニックに対し、今回は、なんと、猛然と、コンピュータ・グラフィックスが襲ってくる! 出演者諸君がワーワーキャーキャー、 CG から逃げまどって、本当に楽しそうでございます。と、いうか、アメリカ人は本当に CG 好きですね。
と、いう具合に、比較すれば、前作でヴィンチェンゾ監督が、低予算の面白い映画を作るために、どういうところに工夫を凝らしたか? が卒然と見てとれ、前作の面白さを再確認できるのでオススメです。と、いうか、面白いスリラーを作るために何をやってはいけないか? …それが詰まったのが『CUBE 2』である。
すなわち、優れたスリラーでは、誰が何のために「スリルのシステム」を作ったかという目的はどうでもいいことなのです。システムと、システムに放り込まれた者の知恵比べこそが、「スリル」なのです。前作は、システムの外部を捨象し、「スリルのシステム」を抽象化/純粋化しようという試みであり、見事に成功しておりました。しかるに今回は、前作で「どうでもいいこと」とされた、システム外部の事象を持ち込むという、いわば裏切り行為を行っているわけで、前作を面白いと感じた人は、決して『CUBE 2』を面白く見ることは出来ないであろう、と私は呆然と一人ごちたのでした。
つまらない映画を見て「時間の無駄」と感じる方にはオススメしません。って、さすがの(何?)私も、途中で劇場を出ようかと思っちゃいました。前作の DVD でも見返す方がよろしいかと。っていうか、前作を「つまらない」と感じた方は、面白く見ていただけるのではないか? と存じます。
(☆= 20 点・★= 5 点・= −100 点)
BABA Original: 2003-Jun-12;