サイン
メル・ギブソン、ホアキン・フェニックス主演、『シックス・センス』『アンブレイカブル』の M ・ナイト・シャマラン監督最新作。
アメリカ、ペンシルバニアの農家、トウモロコシ畑に「ミステリーサークル」が出現。ミステリー・サークルは、ただのいたずらだったことがとっくに判明しているのですが、アメリカ白人メルはそんなことは露知らず、「これは隣のガキの仕業だべ!」と言いはりつつも、メチャクチャ恐がってしまう始末。弟ホアキン・フェニックスも、異星人の襲来の危機を煽るテレビに影響されてビビりまくります。もちろん子どもはそういうのが大好きなものですから「このトランシーバーの雑音は宇宙人が交信しているんだよ!」とたわけたことをのたまい…と、アメリカ南部白人は、「異星人の侵略」という疑似科学/似非科学をいかに信じているかを大真面目に描くサスペンス大作なのである。ババーン!
「大作」といっても、舞台は農家周辺限定で、お安く作ろうと思えばなんぼでも安く作れそうです。阿呆な話を、感動大作に仕立てあげようとして抱腹絶倒、メル・ギブソン、ホアキン・フェニックスが超真剣に演技しているのも笑いを誘います。
しかし、そうそう笑ってもいられません。「異星人の侵略」ものといえば、第二次大戦前夜、オーソン・ウェルズ演出のラジオドラマ『宇宙戦争』が人々をパニックの渦に叩き込んだ、とか、ドン・シーゲル監督『恐怖の街』(1956)が共産主義の恐怖をあおり立てた、との故事があり、そう、「異星人」とはアメリカ仮想敵の寓意の役割を果たしてきたのですね。
現在のアメリカ仮想敵とは、どうやらイスラムのようですから、この『サイン』は、信仰をいったん捨てたメル・ギブソンが、家族を守るために「異星人」=「アメリカに闖入したテロリスト」と戦い、信仰を取り戻していく、というもので、「イスラム対キリスト教」の宗教戦争の図式を喧伝する意図が見え隠れします。「サイン」とは、キリスト教的には「奇跡」を意味しているのだったなあ、とか。
とはいえ、映画に登場する「異星人」現象の数々が思いっきり安っぽかったりして、「異星人の脅威」といってもキリスト教白人の勝手な思いこみに過ぎないことがにじみ出ております。メル・ギブソンが信仰を取り戻すのも勝手な思いこみに過ぎないし。「キリスト教プロパガンダ」の枠を踏み越えかけていると言えよう。適当。
ともかく、『シックス・センス』で成功した、徹底的に伏線を張って、どんでん返しのカタルシスを生み出そうとする監督/脚本シャマランの意気やよし。ホラ話を登場人物の内面の葛藤を掘り下げリアリズムで描く手法は、スティーヴン・キング風でもあり、モダンホラー好きな方にはピッタリかも。
たいそうな広告を見て過大な期待を抱くとガッカリかと思いますが、たまたま見たら意外と面白かった、あら、『シックス・センス』と同じ監督だったのですね、という感じでお楽しみください。オススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Jan-04;