耳に残るは
君の歌声
1920 年代ロシア。幼くして母を亡くしたユダヤ人少女フィゲレ。滅法唄のうまい父の愛情に包まれぬくぬくと暮らしていたのですが、ユダヤ人迫害の脅威が迫ります。『屋根の上のバイオリン弾き』でも描かれていた「ポグロム」ってヤツですかね? 父は新天地アメリカへ、生活の基盤ができたれば必ずや娘を呼び寄せんと移民。
しかし少女フィゲレはなんだかんだあって逃れたのはイギリス、「やーい、ユダ公」とイギリス人に虐められながらも、クリスチーナ・リッチへとすくすくと成長し、ケイト・ブランシェットとともにパリのオペラ座のバックコーラスを務めるうち、ジプシー青年=ジョニー・デップと恋に落ちたりとか。
パリにもナチス・ドイツが侵攻、クリスチーナ・リッチはまたも追われ…と、ヨーロッパを横断するユダヤ人迫害の歴史を、色恋やら音楽やらを絡めて描く、『オルランド』のサリー・ポッター監督の意欲作です。
ネタバレで恐縮ですが、クリスチーナ・リッチがヨーロッパを流転した後、たどりつくのはアメリカはハリウッドなんですね。聞けばハリウッドを創ったのはロシアを追われたユダヤ人たちとか。例えば創世記ハリウッドで「帝王」と呼ばれたサミュエル・ゴールドウィンはポーランド出身ユダヤ人だったり。
ともすればユダヤ人迫害の歴史においてはナチスドイツの悪行ばかりが喧伝されますが、ロシア、イギリス、フランスでも差別されてきたわけで、例えば 9 月 11 日アメリカ同時多発テロの原因にパレスチナ問題がある、なんて言われますが、そのパレスチナ問題も大元をたどればユダヤ人を追い出したヨーロッパに原因あり、ちゅうわけで、なかなかタイムリーかつ興味深い作品ですね。ハリウッドはその起源からユダヤの宣伝機関であった、というか。
ま、そんなことはどうでもよく撮影はこれが遺作となったサッシャ・ヴィエルニー、ルイス・ブニュエル作品や『去年マリエンバードで』、近年はピーター・グリーナウェイ作品の撮影を担当、この映画のオープニング:燃える海でアップアップするクリスチーナ・リッチとか、パリの街を白馬にまたがり闊歩するジョニー・デップとか、微妙にシュールな映像がバチグンにカッコいい!
大河ドラマなのに上映時間 97 分と短め、「迫害されるジプシーといえばとりあえずジョニー・デップ」って感じのステレオタイプ配役もお見事、はっきり言ってメロドラマとか期待すると全然面白くないんですけど、政治映画好きにはオススメです。
BABA Original: 2002-Jan-10;