ザ・ダイバー
90 年代を代表する傑作『ザ・エージェント』のキューバ・グッティング・Jr と、役者バカ一代デ・ニーロが対決する『ザ・ダイバー』!! 人種ネタで対立しつつも火急の際には一致団結してロシア兵を殺しまくるタカ派アクションを勝手に想像してワクワク期待していたのですが、意外にも地味な映画でして、実在する黒人唯一の海軍「マスター・ダイバー」(なんか偉いらしい)カール・ブラシアの半生を描く、昔懐かしい感じの伝記映画の範疇に属する映画でした。監督は『ソウル・フード』のジョージ・ティルマン・Jr 。クラシカルというかモッチャリしてるというか、な語り口です。
描かれる主な時代は 1940 〜 60 年代。キューバ・グッティングは、アメリカ南部の小作農の息子、親父は手にマメを作って厳しい農作業に疲れ果てる毎日。親父は息子に言います。「俺のような大人になるんじゃねえずら!」冒頭で、その後のグッティングの野心の動機をキッチリ抑えておくあたり、定石通りというか安心できるというか陳腐というか。アフリカ系アメリカ人の典型的出世物語が展開することを予想させるオープニングです。もうワクワクです。
黒人小作農の息子は、海軍を志願。出征の日、親父曰く、「ここには二度と戻ってくるんじゃねえずら!」…。親父、泣かせる! 貧乏人の息子がのし上がるには、やはり軍隊。ところが、海軍では、人種差別を撤廃する方針が出されたものの、黒人はとりあえずコックをさせられるなど、差別は色濃く残っています。グッティングは、どういうわけか泳ぎが得意で、このままコックで終わってたまるかい! そこに居たのが海に沈んだ爆弾や死体を回収するダイバー、デ・ニーロ。なんかカッコいいじゃん! と、グッティングはダイバーを志願。何だかんだあってダイバー養成校へ向かいます。
何だかんだあって、デ・ニーロはダイバー養成校の鬼教官になっています。デ・ニーロは人種差別主義で、「コイツをダイバーにしてしまったら、黒人どもがみんな、コックをやりたがらなくなるんじゃい!」と、何としてもグッティングのダイバー志望をあきらめさせんと猛烈なる虐めを加えますが、グッティングは持ち前の人なつっこい笑顔とド根性で頑張る…と、まことにもってコテコテにソウルフルなお話しですね。さながら修身の教科書のようです。いや、修身の教科書なんて見たことないのですが。
ご想像通り、グッティングは見事ダイバー養成校を卒業、目出度し目出度し。きっとアフリカ系アメリカ人諸君は熱狂されていることでしょうナー、あー面白かったナー。これで THE END と思いきや、ここからこの映画は、ブラックスプロイテーションかつ典型的出世物語の枠を踏み越え、大いなる感動を呼ぶ意外な展開を見せるのでした。ここからは映画を見てね。
なんと言ってもデ・ニーロ教官の人物造型が優れています。「実話に基づく」映画なのですが、そこはアメリカ映画、主人公に次いで重要な人物である鬼教官は架空の人物だそうです。描かれている大半のエピソードは捏造なんでしょうね。
そんなことはどうでも良くて、デ・ニーロ教官は、差別主義者の粗暴なヤツ(しかし女房は若くて美人)なのですが、いざ現場では圧倒的に有能な軍人です。グッティングとの間に、徐々に「海軍魂」の一点に於いて共感が生まれてきます。「海軍の名誉」を破壊する官僚軍人に対しては共闘関係も結んだりして。ここに私は大日本帝国軍人、さながら大西巨人著『神聖喜劇』の、トテツモノウ魅力的な人物、大前田軍曹のアメリカ版を見出し、現場で鍛えられた軍人とは、人種・国境を越えてある種の崇高さ=サムライ・スピリッツを帯びざるを得ないのだ、と感じ入ったのでした。デ・ニーロは役作りに『神聖喜劇』を参考にしたのかも知れませんね。
デ・ニーロの、アメリカ南部出身軍人風ニチャニチャした発音も見どころ、グッティングのド根性ぶりも微笑ましく、とにかく妙に盛り上がるのでオススメです。ここで一句。海軍で キミも成ろうぜ サムライに。
BABA Original: 2001-Jun-10;