サトラレ
本広克行監督といえば、知る人ゾ知る傑作(と、思っているのは私だけ)ともさかりえ主演の『友子の場合』があり、その後『踊る大捜査線』で大ブレイク。しかし、満を持しての前作『スペーストラベラーズ』が、とてつものうウタチイ(途轍もなく詰まらない)出来で、さて『サトラレ』。
「サトラレ」とは、考えていることを口にしなくても、周囲に「思念」が漏れ出してしまい、考えを悟られてしまう人たちです。いくら映画とはいえ、阿呆らしくて笑っちゃうのですが、ともあれサトラレたちは、例外なく IQ180 以上の知能を持ち、政府は「サトラレ保護法」を制定し、国家財産として保護管理しております。
安藤政信くんは発見された 7 人目のサトラレで、岐阜県のとある病院の外科医。しかし国家としてはイチ地方都市の外科医でなく国益に見合う新薬の研究者になって欲しくてたまらん、ということで送り込まれたエージェントが鈴木京香さん。サトラレ個人の意志と、国家の圧力との対立がテーマなのでしょうか?
サトラレは、自分がサトラレであることが知らされていません。厳重な監視化に置かれ、人間関係も国家にコントロールされています。『トゥルーマン・ショー』まんまの図式で、この辺のイケて無いパクリ具合は前作『スペーストラベラーズ』と似たものがあります。
本広監督はたいへんな「映画好き」のようです。『踊る大捜査線 THE MOVIE』でもヌケヌケと黒澤明『天国と地獄』を引用したりと、様々な映画的記憶が散りばめられています(いや、脚本家の方のアイデアかも知れませんが)。「こういうのって、どこかで見たよナー」というか。オタク的なんですね。前作『スペーストラベラーズ』は、オタク臭さ、「映画好き」臭さがプンプン漂い、閉口したものですが、この『サトラレ』もちょいとヤバイ。「個人と国家の対立」とは考え出すとアレコレ発展できるテーマなのですが、オタク的なところでまとめられてしまっています。映画(やマンガ)ばかり見ていては、「個人と国家の対立」なんちゅうテーマをまともに扱えるわけがない、と思うのです。官僚どもがそう簡単に善意を発揮するワケがないですよね。善意あふれる官僚ほどタチの悪いモノはないでしょう。よく知りませんが。
本広克行監督は、妙に盛り上げる演出力はある、と思いますので、良き脚本家、良きプロデューサーと組んで『踊る大捜査線』みたいなホームランを再びかっ飛ばしていただきたいものです。
全くダメかというと、そうでもないのです。特に安藤政信くんがメチャクチャいい! 両親を亡くし、八千草薫演じる祖母に育てられた設定なのですが、祖母を慕う気持ちに思わずもらい泣きしてしまいました。また、岐阜の田舎町をとらえた撮影も非常に美しいです。田舎臭さがプンプン。やはり「サトリ」発祥の地、ということで岐阜なんでしょうが、なかなかよさそうなところですね。
オタク臭さ、「映画好き」臭さに目をつぶれば、圧倒的な感動作です。泣ける! オススメ。
BABA Original: 2001-Apr-13;
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