グリーン・デスティニー
『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』のアン・リー監督の新作は驚いたことに中国チャンバラ時代劇「武侠片」だ。アン・リーといえば「女性映画」のイメージがあるが、「女性映画」=「女性の自立をテーマにした映画」ならば、今回も、望まぬ結婚を強いられる女性がみずからの思うがままに生きるべしと決意を固めるプロセスを描いており、立派な「女性映画」と言える。
「武侠片」、といえばキン・フーが代表的な監督だが、日本では一般的にあまり見られない。ボクも一本しか見ていない(題名忘れた。なんか武侠が和冦と闘う話)。アン・リーは子供の頃、武侠片に熱狂、インタヴューで「武術映画を作って、初めて本当の映画製作者となるんだと考えている自分がどこかにいます。」と答えており、「こんな映画が作りたかったのだ!」との意気込みが全編にあふれている。
アン・リーは『推手』で気孔の達人、『恋人たちとの食卓』では料理の達人、それぞれが老いと格闘する姿を描いてきた。『グリーン・デスティニー』もまた「達人」の映画である。西部劇の早撃ちガンマン、日本時代劇の剣豪、活劇に不可欠なのは達人なのだ。達人をいかに描くかに古今の監督たちは腐心してきた。『グリーン・デスティニー』の素晴らしさは、達人が見事に達人であることだ。
チョウ・ユンファ演じる伝説的な武侠リー・ムーバイの、片手で闘う達人ぶりを見よ。その女弟子ミシェル・ヨー演じる熟年武侠シューリン、若くして秘伝書を読み解く「隠れた龍」=シャオロン(なぜか字幕では「イェン」)のスピード感あふれる圧倒的な立ち回りを見よ。屋根から屋根へと飛び移るダイナミズムだけでなく、ひっくり返されそうな茶碗をスッと元に戻す静的な「達人」演出にアン・リーは圧倒的なうまさを見せる。
日本でもかつて栄光を誇ったチャンバラ時代劇を CG も使って現代的に作り替える作業が行われており、『梟の城』『五条霊戦記』が作られたが、『グリーン・デスティニー』と比べるのは可哀想というものか。『梟の城』の忍者は「オリンピック選手程度の身体能力の持ち主」におとしめられていたが、東洋の「達人」を西洋合理主義に則って描こうとするのが間違いである。東洋の「達人」は重力法則を徹底的に無視し、さながら天から吊られているがごとく(吊られてるんですけど)屋根を飛び、水の上を飛び跳ね、竹の枝の上で剣をふるわねばならぬのだ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』でお馴染みアクション監督ユエン・ウーピンによる達人アクションがとにかく素晴らしい。
「我は無敵の剣神/ムーバイもかなわず/この手にあるのは碧銘剣/我は荒野の龍/誰にも追うことあたわず/今日は大河を飛び越え/ウーダン山を蹴り倒す!」
こんな感じで女剣士・シャオロンが豪傑どもをバッタバッタとなぎ倒して見得を切るシーンは、かつてブルース・リーが『燃えよドラゴン』でヌンチャクを振り回して「ホワ!」と一声叫んだシーンに匹敵する、映画史に残る名シーン。
とにかく、20 世紀空前絶後のオススメ。アクションあり、ラブロマンスあり、おまけに劇場はガラガラなのでデートムーヴィーとしても最適!
BABA Original: 2000-Nov-22;
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