クリクリのいた夏
…ってことですが、クリクリはあんまりいません。物語はおバアさんになったクリクリが回想してる設定で、思い出したように子ども時代のクリクリが出てきて老女のナレーションがかぶさるんだけど、クリクリ、チョビッとなんです。話の中心は沼地の掘っ建て小屋に住むオヤジ二人。『ポネット』とか『ロッタちゃん』、あるいは『マルセルの夏』みたく、少年少女が大活躍する話じゃなくってオジサンはガッカリなんだが、これはこれで心あたたまる傑作。
原題は「沼地の子供たち」で、この「子供」にはジジイまで含まれている。つまり「男はみんな、いくつになっても大きな子供」ってフランスお得意のエスプリってヤツですね。とれびあーん。ちなみに配給はシネマ・パリジャンじゃん。
主人公ガリスは、第一次大戦の復員兵で、なんとなーく沼地に住み着く。戦争で心に傷をしょったらしいが詳しくは語らず。近所には『奇人たちの晩餐会』でおなじみ、馬鹿まるだし=ジャック・ヴィユレが住んでいて、この二人のその日暮らしぶりがほんわかと描かれる。
カタツムリを獲って売ったりスズランを摘んで売ったり蛙をつかまえて売ったりアコーディオンを奏でたり、あるいは未亡人宅の庭師として働いたりと、まあ、その日の糧にありつければそれでよしの気ままな生活。けれでも主人公ガリスは沼地に住んで 12 年、果たしてオレはこのままで良いのか? と焦っている。ジャック・ヴィユレは『奇人たちの晩餐会』同様の抜け作で、礼儀知らずの生活力なし、トラブルメーカーでガリスに迷惑をかけっぱなしだ。ガリスは、こんなヤツとつるんでいたらオレはダメになっちまうと思いつつも彼が心配だったりのアンビバレンツな日々。最近では珍しいゲイの匂いなしの男の友情物語で『自由を我等に』みたいな、クラシックなフランス映画の味あり。よく知りませんが。
テーマは明白、「真の自由とは何か?」であります。すなわち現代では時間に追われてあくせく働いて、物質的には豊かになったけれど、果たしてそれで幸せなのか? 貧乏だけど好きなときに好きなように働く彼らの方がよっぽどいいんじゃない? って、都会のシステムでしか生きられない者にはうるさいっちゅうねん、とも思ったりもするが、会社員よりフリーター、しかも田舎のフリーターの方がいいってことだな。そりゃそうなんだけど、そうも言っていられないのが世の常。その辺の難しさは作者も承知で、「沼地は、もうどこにもない」ってのがラスト。泣けるぜ!
ジャック・ヴィユレの馬鹿の犠牲になるボクサーが復讐にやってくる、ってなサスペンスもあったりするし、ちょいと苦いロマンスもあったりで、最近のフランス映画が大嫌いな人でもホッコリすることウケアイだ。ちょっと都会の生活にお疲れ気味の方にオススメ、ってかこの映画を見てホッコリするようなら生活に疲れ気味ってことだ。映画なんか見てないで田舎で静養しましょう。
BABA Original: 2000-Nov-05;