シュヴァンクマイエルのアリス
ヤン・シュヴァンクマイエルという人を初めて知ったのは、もう 10 年以上前になります。
まだ分裂前のチェコ・スロバキアで、アート・アニメーションの巨匠と呼ばれている人でした。作品より先に名前を知ったのは、同じくアート・アニメーションの世界で名を知られている、イギリスのクエイ兄弟の作品でした。『ストリート・オブ・クロコダイル』と言うタイトルで括られた彼らの短編作品集の中に『ヤン・シュバンクマイヤーの部屋』というのがありました。彼ら自身が師と仰ぐシュヴァンクマイエルにオマージュを捧げた作品でした。クエイ兄弟の作品は、シュヴァンクマイエルの作品に見られるちょっと笑えるブラックなユーモアとは少し違い、イギリス人特有のダークな世界観を醸し出したものでしたが、アニメーションの方法論としては真っ正直にシュヴァンクマイエルのものを踏襲したものと言える作品でした。
さてその 1 年後、実際にシュヴァンクマイエルの作品に触れる機会を得た僕は、時間の許す限り多くの作品を見るように務めたのを覚えています。各芸術大学で映像を専攻している学生さんたちで賑わった上映会場を、昨日のことのように思い出せます。それ以来、ヤン・シュヴァンクマイエルの作品及び、チェコのアニメーションという物は、先述の学生さんたちに、ひとつの指標を与えたと言っていいでしょう。あれから 10 年たった今でも、その上映機会には、芸術系大学の学生さんたちで賑わっているのが何よりもその強烈なインパクトを物語っているでしょう。
さて『シュヴァンクマイエルのアリス』ですが、この作品が日本で、一番最初に紹介された彼の作品であったと記憶してます。『不思議の国のアリス』をモチーフにし、シュヴァンクマイエルのひとつの特徴でもある、実写とアニメをうまく融合させた傑作であるのは、今更僕が言うまでもないのですが。独特のブラックユーモアも全開状態で、トランプの王様が次々と斬首刑を下していく様は、何とも残酷でありながら、つい、笑ってしまえる名シーンだと思います。
原作がある作品でもあり、シュヴァンクマイエル未体験と言う方には、是非、この作品から入っていただきたいと思います。
今更レヴューでもない作品だとは思いましたが、今回久しぶりに上映されるにあたり、色々と感慨が湧いてきたので、何とはなしにペンを取ってしまった次第です。なんか思い出話になってしまいましたが、ホント、見たことのない人は是非、体験して下さい。反省はしても後悔はしないと思いますよ。5 月 20 日まで、みなみ会館でレイトショーです。
kawakita Original: 2000-May-18;
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