ミニー&モスコウィッツ
なんとダラダラで、スカスカの映画なのでしょう。しかも 114 分という決して短いとは言えない上映時間。普通なら退屈で死にそうになってしまうところなのですが。でもそうならない。これは理屈では説明しようの無いマジックが隠されているようです。カサヴェテスと言うだけで、もう冷静には見ていられないという贔屓目もたぶんにあるのかもしれませんが。
物語は、ミニーとモスコウィッツという青春というには少々とうの立ってしまった男女の結婚に至るまでの課程が、非常にエキセントリックに描かれています。ミニーは、いつまで立っても白馬の王子様を夢見てしまい、かといって、職場の同僚である初老の女性に、「その年になっても性欲はあるのか?」などという、酔っているとはいえ、恥ずかしい質問を浴びせてしまう。要するに彼女も自分が美しいと言うことと同時にそれほど若くもないのを一応は認識しているということだろう。しかし言い寄る男を一切受け入れない。
モスコウィッツの方はと言えば、こちらも既に若いとは言い難い年齢にさしかかっていながら、定職がなく、それ自体あまり自分でも気分が良くないのか、辺り構わず、回りにいるものに当たり散らしてしまう。そんな二人が出逢うのである。
勿論、ミニーは彼を拒否するし、モスコウィッツは、怒ってるんだか、情熱をぶつけてるのかよくわからないような求愛を繰り返す。ぶつかり合っては謝り、そしてまた衝突する。それの繰り返し。で、ひょんなことから相手の誠意が見事に伝わり、めでたく結婚へと導かれる。いつものカサヴェテスの映画に比べると、脳天気なくらいのハッピーエンド。でも、陰惨な終わり方の映画もないですけどね、彼の映画には。
これは、結婚制度というものには最後まで賛同出来なかった割には、あっさりジーナに一目惚れし、結婚してしまったカサヴェテス自身の物語である。実際、シーモア・カッセル演じるモスコウィッツの母親役は、カサヴェテス自身のお母さんであり、ジーナ・ローランズ演じるミニーの母親役は実際のジーナのお母さんである。何とも生々しい。顔もそっくり。
冒頭で言ったダラダラでスカスカなのに目が離せないというのは、良質のドキュメンタリーがそうであるのと同質のもののような気がします。よくよく考えると、基本的にカサヴェテスの映画ってみんなそうですよね。突拍子もないようなエピソードも、実際にあったことがモチーフになっているらしく、それがまたほほえましくも緩い感じでみているものの体に染み渡っていく。ローバジェット映画のブームだったとはいえ、天下のユニバーサル映画でこんな映画を撮ってしまったカサヴェテスには、やはり拍手喝采を送りたいと思います。パチパチ。全ての人間に対する突き放しつつも暖かい視線という彼の一貫した姿勢は貫かれていると感じました。
19 日まで、扇町ミュージアムスクエアにて上映。勿論京都はみなみ会館で近日公開。
kawakita Original: 2000-May-14;