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Movie Review 2000・1月8日(SAT.)

ポーラ X

公式サイト: http://www.polaxjp.com/

 レオス・カラックスの新作。『ポン・ヌフの恋人』は、主演男優の骨折でポン・ヌフロケができなくなってセットを作ったら台風で吹き飛ばされて…と、あの内容の話で 32 億円以上もかかっちゃって、もう映画はコリゴリの感を強くしてたのかカラックス 8 年ぶりのお目見え。ちなみにボクは『ボーイ・ミーツ・ガール』は面白く見たが、ビノシェと相性が悪く『汚れた血』『ポン・ヌフの恋人』は好きではない。

 ハーマン・メルヴィルが『白鯨』の後に書いた小説『ピエール』の映画化だそうだ。ポーラなんちゅう名前の人は出てこないのに「Pola X」とは謎な題名であるが『Pierre ou les ambiguites』(「ambiguites」の「u」はウムラウト、「e」はアクサン)という『ピエール』のフランス語版題名の頭文字に「X」をつけたモノ。何が「X」かっちゅうのもよくわからんのだが、映画も謎に満ちている。

 ギョーム・ドパルドュー演じるピエールはどうやら大金持ちで、郊外のゴージャスな屋敷に、母親と思われるカトリーヌ・ドヌーヴと住んでいる。何故に「思われる」かというと、ギョームはドヌーヴのことを「姉ちゃん」と呼んだりしてるからで、そろそろ老境に達してボケの入った母親が「姉ちゃんと呼べ!」と言ったかどうかは知らないが、この辺は曖昧なのだ。父親は死んでるんだけど、暴露本が出されるくらいに高名な外交官らしい。

 ギョームは謎の覆面作家「アラジン」としてカルトな小説を書いたりしており、これまた金持ちの婚約者がいたりして、ブルジョアジーの優雅な生活を満喫している。

 ところが次回作に行き詰まったストレスの故か、父親の形見のバイクで転倒したりしているうちにホームレスらしい女の子イザベルに妙に惹かれてしまう。イザベルが夜道を歩いているのをとっつかまえてムリヤリ話をしてみると、イザベルはギョームの姉だったのだ。ガーン。

 ギョームは婚約者をオッポリ出して、家出。姉を自称するイザベル、ホームレス仲間(?)の親子(?)とパリへと向かう。なんだかんだで姉かも知れないイザベルと深い仲になっている間に、子どもが道行くサラリーマンを「臭っ!」と罵ったために殴られて死んじゃったりして。なぜか犬がギャンギャン吠える倉庫へ連れていかれれば、そこは某スペースモンキーズ風黒服の一団のアジトで、ギョームとイザベルはそこに居候することに。スペースモンキーズ達はロッケンロールの交響楽みたいなのを練習したり、裏庭で軍事訓練したりと、これまた謎なヤツらだ。

 スペースモンキーズのリーダーと仲良くなって、ギョームは「こいつ、ネタになる!」と猛然と小説を書き始める。ところが金持ちの婚約者がアジトにやってきて、従兄弟が連れ戻しにやってきて…という話。ってよくわかりませんね。

 ともかく、なんでこの人ら血の川で流されてんの? とか、チンポの形をした岩は何? とか謎が多い。スペースモンキーズのアジトの部屋を借りるとき、ギョームとイザベルはまず、お互いの部屋を隔てる鉄の扉を設置する。後に金持ち婚約者がやってきたときも、新たに鉄の扉を設置。意味深な繰り返しであるが、この辺の解釈は見た人が適当に考えてね! ってことか。STUDIO VOICE 掲載の監督インタビューを読んだけれど、大事な(とボクが思う)コトが余り質問されず要領を得ない感じである。

聞き手
「なんで、鉄の扉をいちいち取り付けるんですか?」
レオス
「アレは、まずは自分の個室を確保しなければ生活を始めることが出来ないピエールのブルジョア的感性を強調しようとしたんだ。難民達は個室なんてもってのほかで、身を寄せ合っているんだけどブルジョアはまず『個』を確立しようとするんだな。難民にシンパシーを寄せつつも所詮ブルジョア的感性が抜けきれないってことだ」

 …というようなやり取りをして欲しいんだけど。あ、このレオスの答ってのはボクの捏造だから真に受けないように。デヴィッド・リンチ風に謎は魅力的な謎のまま放り出しておくってことか、監督自身もよくわかっていないのか。

 映画冒頭、墓場を破壊する爆撃シーンから始まるのだが、どうやらイザベルはボスニア難民。ヨーロッパ世界に同居するブルジョア世界と戦争難民世界の対比、その二つの世界を横断する一人のフニャチンインテリの魂の遍歴という見方もできる。色々不明な点はあり、前半ブルジョア世界の描写は退屈なれど、ホームレスの世界に入り込んでからは波瀾万丈の展開でグイグイ引っ張られる。

 まあ難しいことは映画を見た後に色々考えてもらうとして、なんでも前半は 35mm で撮影、後半は 16mm をブロウアップしたというエリック・ゴーティエによる素晴らしい撮影を堪能しよう。某京都朝日シネマのチビッコ画面で見るのはもったいない限り。イザベルが身の上を明かす森のシーンはデジタル画像処理で昼間撮影したのを夜に変換したらしいが、イザベルの奇妙な語り口調と相まって、かつて見たことのない「夜」の闇が造り出される。その他、ドヌーブがバイクでかっ飛ばしたり、クライマックスには最高にカッコいいシーンもあったりと、見応えは充分だ。ドヌーヴのオッパイが見れるとか騒いでるヤツもいるぞ。アホか。

 非常にカラックスらしい映画という人もいるし、なんか、っぽくないという人もいる。ボクは「一皮むけた」印象を受けた。みなさんはいかがでした?

 とにかく同じ「謎」な映画でも『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』より 1000 万倍は考え甲斐があるのでオススメだ。

BABA Original: 2000-Jan-08;

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