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Text by 小川顕太郎
2006年06月06日(Tue)

ダーク
読書・文学, 音楽

 桐野夏生著『『ダーク(上)』文庫ダーク』を読む。これはいはゆる「村野ミロ」もののひとつで、主人公は勿論村野ミロである。しかし、いやはや、噂には聞いてゐたものの、なかなかに凄い。今までの『顔に降りかかる雨』『天使に見捨てられた夜』『ローズガーデン』『水の眠り 灰の夢』などの作品に出てきた人々がゾロゾロと出てくるのだが、これらの人々がみな恐ろしくダークに、ネガティブに、反転して描かれてゐるのである。

 そこには、ほとんど悪意と見紛ふ程の作者の圧倒的な強固な意志、が感じられ、爽快感さへ味はふ事ができる。特に村野ミロ。ミロの発するネガティブヴァイブは凄まじく、私は初めて村野ミロに対して共感を持つことができた。と、いふのも、私はどうも上記作品に登場する村野ミロに共感する事ができず(『水の眠り 灰の夢』の時は赤ちやんだから関係なし)、なんか中途半端な奴だなー、ま、かういふ中途半端に魅力のない人間をわざわざ主人公に据ゑるのが新機軸なのかな? などと考へてゐたからである。

 ところが世の中にはやはりいろんな人たちがゐて、この作品における村野ミロの描き方が酷い! と怒つたファンの方々が結構ゐたさうなのである。うーん、さうなのか。凄い怒り方だな、それ。でも、私同様、この作品で初めて村野ミロが好きになつた、といふ人もそれなりにゐるとは思ふけれど。

 それはともかく、桐野夏生は素敵なパンチラインを生み出す事でも有名なのだが、この作品からもひとつ。

「食い物が何だの、着る物が何だのばっかり言う奴はね、どっか人間として弱いんだよ」

 これはスタイリッシュな美青年のゲイ、トモさんが罵倒される言葉。前作まではカッコ良く描かれてゐたトモさんは、この作品では卑しい側面を出しまくる事になる。…と、それはそれとして、この言葉には、やはり普遍的なある真実が含まれてゐると思はれる。確かに、さういふ「美学」に拘る人間は弱いのだ。では、その対局にある強さとはどういつたものだらうか。ここで私は唐突に、南部のヒップホップの連中を思ひ浮かべるのであつた。

 彼らは悪趣味で、下世話で、俗悪である。そしてその事を誇つてゐるやうに見える。これは一見、かういつたものが彼らなりの「美学」なのかと思はせるし、実際さういつた側面はあるだらうけれど、やはりそこには「美学」なんてチンケなものを吹き飛ばす強さ、が張つてゐるやうに私には感じられるのだ。だから、すごーく、カッコいい! でも、一般の人たちには単なる悪趣味、にしか見えないかも。

 そこで、そんな彼らのカッコ良さを捉へたPVをひとつ。今や世界中で大ヒット、とうとう日本盤まで出てしまふといふ快挙を成し遂げたthree 6 mafiaの『stay fly』だ!

 ス、ステキすぎる!

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