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Text by 小川顕太郎
2006年02月07日(Tue)

博士の愛した数式
映画

 TOHOシネマズ二条にて『博士の愛した数式』を観る。これは小川洋子の同題の小説の映画化。小川洋子のこの小説は、直木賞に反発して「ほんとうに読者にとつて面白いものを!」といつた趣旨で設けられた本屋大賞の第一回受賞作。書店員さんたちが選んだ賞ですね。そんなこんなで話題になつて早数年(?)。いつか読みたいなー、と思ひつつ読まない、といふいつものパターンを踏んでゐたら、先に映画になつてしまひました。はは。

 で、映画の方ですが、これがなかなかに面白い。博士、といふのは数学者のことなんですが、これを寺尾聡が好演。寺尾聡、初めてイイと思つた! といふ声が私の周りでも沸き起こつてゐる程です。いや、私も同感。

 まづ、この数学者の造形がイイんですね。私は、数学にはもの凄く興味があるけれど、いざ数学の本を読んでみるとかなりツライ。それよりも、数学者について書かれた本の方がズウッと楽しめ、ああ、自分が数学に興味を持つてしまふのは、これら数学者の人たちが魅力的だからではないか、と常々考へてゐる者ですが、多分、小川洋子もさうではないか。いや、数学そのものにも凄く造詣が深かつたら失礼な話ですが、とにかく、魅力的な数学者像、といふものを分かつてゐる。先日読んだ『容疑者Xの献身』とは大違ひです。

 むろん、この映画の製作陣も、そのことはよく分かつてゐます。まづ、美しい大自然を舞台に話が展開する。これが重要。教室の外には大海原が波打ち、博士が散歩する道々には美しい花や植物に満ちてゐる。博士の家に通ふには自転車に乗つて林を抜け、土手を走り、その上には青空が輝いてゐる。瀧が、ドーッと落ちるシーンまである。さらに全編に流れるのは甘い管弦曲。世の中には『π』のやうに、数学といへばテクノを流すスットコドッコイの映画もありますが、この映画は違ふ。なぜなら、数学にとつては“美”が大事だからです。数学者がしばしば変人に見えるのは、この美のイデアの世界に遊んでゐるから。その事を、この映画は分かりやすく示してゐる。素晴らしい、と思ひました。

 さらに、この映画では、数学と阪神タイガースが緊密に結びついてゐる。ヤマネくんが「今までで最高の阪神タイガース映画だ! 今年のベスト1決定です! 余裕で『キング・コング』を越えました!!!」と言つてゐたのも頷けます。博士が、江夏がいかに素晴らしいかを説明してきて、「それに、江夏の背番号“28”は完全数だ」と言ふところなど、阪神タイガースファンでない私でさへ「よし!」と親指を立ててしまひました。

 実はストーリー自体は大したことはなく、どちらかといふと緩めなのですが、“世の中を肯定する力”みたいなものが全編に張つてゐて、そんな事は全く気になりませんでした。力の湧いてくる映画。あ、吉岡秀隆くんもナイス好演でした。ナイス√。

公式サイト
http://hakase-movie.com/
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Comments

投稿者 Ooh : 2006年02月15日 18:38

小川さんは藤原正彦さんに取材されたそうですよ。NHK教育の番組をご覧になっていたようです。本のほうも是非どうぞ。

と、僕の方は映画を見てませんが。

投稿者 店主 : 2006年02月16日 03:25

オオ!さうだつたんですか。道理で、吉岡くん(数学の先生役)が藤原正彦みたいな事を言ふなー、と思つてゐたのですよ。ちなみに私は藤原正彦、結構好きです。岡潔系ですからね。
本の方も読んでみます(テラリーに借りました)。Oohさんも、よければ映画の方を是非。なかなか良いですよー。

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