私の“萌え”考
[etc]
私は「萌え」といふ言葉がイマイチよく分からなかつた。もちろん、今や「萌え」は全国に広まつてをり、様々な人々が訳も分からず勝手に使つてゐるので、その本来の意味は拡散・希薄化し、「好き」とか「感じる」ぐらゐの意味になつてゐるのは知つてゐる。が、本来の用法から言ふと実は一寸違つて、辞書的な定義になるけれど、「コミック、アニメ、ゲームなどのキャラクター、アイドルなどに向けられた虚構的な欲望」といふのが本来の意味だ、といふ事も知つてはゐるのである。とはいへ、アニメやゲーム、アイドルなどに何の興味もない私としては、やはりいまひとつピンとこなかつたのである。
それが先日、01くんの引率により秋葉原のメイド喫茶・リフレめぐりをしてゐる時に、01くんを観察してゐて、ハタと悟るところがあつたのだ。もしかして、“萌え”とは、これか? …。以下は私の極私的“萌え”考である。
“萌え”とは、全く深さを欠いた、表層のみに反応する欲望のことではないか。たとへば、あるメイドさんに“萌え”るとする。しかし、それは街で一寸好みの女の子を見かけて「お、いい感じぢやん」と思ふのとは違ふのである。なんといふか、いま、この瞬間に自分とメイドさんが対峙してゐるその状況(シチュエーション)、この物事の表層に自分の全感情を投げ入れ、反応して激しく燃えることなのではないかと思はれる。だからそれ以上深くは、突き進まない。具体的には、別にそのメイドさんとよろしくやらう、などとは思はないのである。01くんは何度か「“萌え”と“エロ”は違ひますから」と言つた。この言葉を借りると、その状況・表層より深く突き進まう、といふのは“エロ”なのだ。むろん、01くんによれば、なんとか特定のメイドさんと仲良くならうとして、しつこく迫つたりするオタもゐるやうだ。が、それは“エロ”であつて、“萌え”ではない。物事の表層(状況)のみを愛でること。このやうに考へれば、“萌え”は限りなく“粋”な行為に見えてくるのではないだらうか。実際、メイド喫茶・リフレを何軒もハシゴして、ひとつひとつにはそれほど深く拘泥することなく、それでも何度も“萌え”ながら、お金を散財する01くんは、粋な江戸ッ子の遊び人に見えた。ま、たつた一日の観察による印象なのですが。
しかし、このやうな態度は、容易にスノビズム・シニシズムに転落する危険性がある。この危険を如何にして防止するか、が、今後の課題になると思はれます。(ッて、なんでいきなり偉さうになつてゐるんだ私は)
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Comments
投稿者 01 : 2006年01月27日 22:32
>この瞬間に自分とメイドさんが対峙してゐるその状況
>(シチュエーション)、この物事の表層に自分の全感
>情を投げ入れ、反応して激しく燃えること
いわゆる「シチュエーション萌え」というのが、丁度そういう感じだと思います。ただしその他にも、特定の属性(姉、妹、ドジっ娘etc)や、身体的特徴(猫耳、触角状の頭髪=アホ毛etc)に反応するという萌えがあるようです。
このあたりの事情に関しては、
・東浩紀『動物化するポストモダン』
・本田透『萌える男』
などに詳しく書かれています。前者は萌えに対する外在的分析、後者は内在的分析として位置づけられるように思えます。
あとご指摘のスノビズム、シニシズムですが、確かにそういう傾向が感じられることはありますね。なんというか、ヲタクとしてのエリート意識が強まりすぎて、「こじらせてしまう」場合などに。
私自身、ある程度スノッブでシニカルな人間だとは思っていますが、そういうダメな部分に対しては、自覚的でありたいところです。
投稿者 店主 : 2006年01月28日 16:02
なるほど。ぢや、01くんは「シチュエーション萌え」になるのかな?他の「萌え」は分かるやうな分からないやうな。いはゆる「フェティッシュ」とどう違ふのか。あくまで「虚構的な欲望」といふ所が違ふのだらうか。そこが「エロ」と「萌え」の違ひ、とか。
東浩紀の「動物化するポストモダン」は、あの後、理解を深めやうと思つて読みました。なかなか興味深かつたです。ただ、結論に関しては「?」といつた所。そもそも私はヘーゲルやコジェーヴの“歴史の終はり”議論を信じてゐませんので。
それでも、様々な知見を開かれたのは事実で、またこの事に関して01くんと議論(?)してみたいと思ひました。
投稿者 01 : 2006年01月29日 12:56
フェティッシュとの違いということに関しては、明確には分からないのですが、個人的な感覚としては、やはりエロが介在するか否かという点にあるようにも思います。ただ、現在一般的な萌えという言葉の使われ方を見る限り、その差異は曖昧ですね。
本田透さんの本も興味深いですよ。ちくま新書で出てます。
投稿者 店主 : 2006年01月29日 19:31
分かりました。本田透「萌える男」もそのうちに読んでみます。