手紙
タカハシくんから届いた手紙の話をしてゐると、「手紙を書く、といふのが凄いですねー。ボクは生まれてこのかた、手紙といふものを書いた事がありません」とテラリーが言ふので、そこにゐたみんなが驚いてしまつた。
「えー、ウッソー、私なんか今でも週に一回は手紙を書くわよ」とハッサクさんが応じたのにも一寸驚いたが、そこまでではなくとも、手紙くらゐ書いたことがあるもんだ。私も小・中学生くらゐまでの頃は、何通か書いた覚えがある。転校していつた仲の良い友だち宛に、など。ま、すぐに絶える儚い文通ではあるのだけれど。
それにしてもさすがテラリー、現代ッ子といふ感じだ。伊達に携帯メールを一日に100通以上打つたことがある訳ぢやあないな。テラリーはなんでもかんでもメールで済ますのかな?
「いや、さうですねー。大事な書類とか論文をワープロで打つて、それを封筒に入れて送つたことはあります。その、いはゆる手紙といふ形式を踏んだことがないんですよ。そんなシチュエーションもなかつたし。メールで送るのは、ほとんど下らない事ですよ」
なるほど、一日に100回以上も下らない事をやりとりしてゐる訳だな、テラリーは。ま、人生なんて99%が下らない些事から出来てゐるから、それでいいとも言へる訳だが、やはりあまりに虚しいな、それでは。もうちッとマシな事をしてみんか。
「どんなことです?」
例へば、歴代天皇の諱を暗誦するとか、全国各地の天皇陵を経巡るとか、日本の国防計画をたてるとか。
「なんですか! それは!」
いや、分からなかつたらいいんだけど。…ま、さうだね、テラリーも一度手紙とやらを書いてみてはどうですか。ライバルのタカハシくん宛にでも。候文なんかで書ければ素敵だね。
「候文ですか…。候文と言へば、先日『壬生義士伝』を読んだんですけど、この小説、ラストが候文の手紙なんです。確かに素敵でした。小説自体も良かつたですよ。最近のボクのオススメ時代小説です」
さうですか。では私は『パンク侍、斬られて候』町田康著をオススメしませう。候文には何の関係もないですが。
小川顕太郎 Original: 2005-May-11;- Amazon.co.jpで関連商品を探す