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 Diary 2005年3月19日(Sat.)

ラスト・オブ・タカハシくん

 タカハシくん来店。タカハシくんは、明日、とうとう東京に発つ。それで今日はマツヤマさん、ハッシー、YO!ちやんに招かれ、ささやかな別れの宴を張つて貰つたやうだ。その後、みんなでオパールにやつて来て、すでに来店してゐたウメドンやアツコさん、ババさんなどにも囲まれ、別れの言葉を貰つてゐた。

「元気でね、身体には気をつけて。東京に行つたら、お店に寄るから」

「まー、多分もう会ふこともないだらうけど、頑張つて」

「休みの日には帰つてくるでせう? オイシンとかワダさんみたいに。待つてるし、毎週」

「キッシッシッシ、タカハシくん、もう店主日記に出られないなァ、キッシッシッシ!」

 みながタカハシくんの頭や腕や腹や顔などをポンポン叩いて帰つていつた後、「あの、一寸(前に働いてゐた)店に挨拶に行つてきます」と言つて、タカハシくんは出ていつた。

 閉店後。店の片付けをしてゐる時に、タカハシくんは帰つてきた。とりあへず未来のことはいい。過去を振り返り感傷に浸るのも、あまり望まない。先日のイタリア旅行がいかに楽しかつたかを、訥々とタカハシくんは語つた。それを私とトモコは、結局最後までこの宮崎訛りは消えなかつたなァ、東京に行つても残るかしら、などと考へながら、頷き、聞いた。

「ますますイタリアで働きたい、といふ気持ちが強まりました。とにかく今は…頑張つて働きます。」

 と言つて、タカハシくんは腰をあげた。別にこちらは送る言葉もない。目で頷いて送り出さうとすると、トモコが一言だけ、言つた。

「タカハシくん、もし自分が何か間違つたことやマズい事をやつてゐる、やつてしまつた、と思つたら、最初からやり直しなさい。その場で誤魔化して先に進むのはダメ。面倒くさくても、最初からやり直しなさい。今まで生きてきた人生より、これからの方が長いんだから。やり直しはききます。」

「はい。どうも今までお世話になりました。ありがたうございました。」

 タカハシくんは、エレベーターの中に消えていつた。

 タカハシくんはよく、閉店後の片付けの最中にやつてきた。仕事が終はつてから、帰りに寄るからだ。そんな時は、乞はれるままに何か一杯だけ、飲み物を出したものだ。それによつてこちらの帰る時間はさらに遅くなる訳だが、別に気にならなかつた。といふより、密かにそんな来店を心待ちにしながら片付けをしてゐた節もある。そんな事ももうなくなるな、と思ふと、一寸寂しいやうな気がしないでもない事もないでもない。

小川顕太郎 Original: 2005-Mar-23;