タカハシくんからの手紙
さういへば1週間ほど前にタカハシくんから手紙が来たのであつた。今勤めてゐる店を辞める、といふ内容の手紙を受け取つてから、パタッと手紙が来なくなつたので、ああ、これはダメだ、東京で悪の道に踏み迷つてしまつたに違ひない。きつと今頃、怪しげな化粧品なんかを売つてゐるのだらう。あるひはコンビニでバイトか、などと考へてゐる時に、タカハシくんと同じ店で働いてゐるといふ人が、京都旅行のついでにオパールに寄つてくれた。私は早速メモをちぎり、手紙くらゐ書かんかい! 馬鹿者! と、書いてこれを封筒に入れ、タカハシくんに渡してくれるやう、その人に託した。その人はそれを快諾してくれ、帰り際に「さういへば、タカハシくんが手紙を書いたと言つてゐました。明日ぐらゐには届くでせう」と言つた。うーむ、もう少し早く言つてほしかつた。
で、次の日にタカハシくんから手紙は届いた訳だが、それによると、一応当初の「イタリアで働く! イタリア料理のシェフになる!」といふ目標に沿つて、ちやんとイタリア料理店で働いてゐるやうである。ただし、その店は系列で日本料理もやつてゐるやうで、そちらの方も手伝つてゐるみたいなので、予断は許さない。気がつけば、日本料理人になつてゐるかもしれない。また、この夏から、イタリアに行つた時のためにイタリア語を習ひに行く、との事だ。これも一見堅実に目標に向かつてゐるやうだが、予断を許さない。気がつけば、イタリア語教師になつてゐるかもしれない。このやうに、いくつも逃げ道を用意してゐるところが不安ではあるが、なに、大丈夫だ。どんなに逃げやうとも、オパールから逃れることはできない。そのための住基ネット(国民背番号制)なのだ。赤紙一枚で、どこにゐやうがすぐに徴集できる。問題は、赤紙を発行する権力がオパールにあるかどうか、といふ事だが、ポー社長は「ある」と断言してゐる。赤はポーの領分なのださうだ。赤旗、赤紙、ブラッズ、赤道、赤字……赤字?! もしかして、ポー社長が君臨する限り、オパールは赤字なのでは! 「当たり前やん」
ガーン! さうだつたのかー!!! …私も逃げ道を考へなくては。
小川顕太郎 Original: 2005-aug-1;