リベンジ
とうとうショウヘイくんまでフィットネスクラブに通ふやうになり、テラリーを除くスタッフ全員がフィットネスクラブ通ひをする事になつたオパール。空前のフィットネスブームである。当然、といふか、常連さん達にもフィットネスの素晴らしさを熱烈にアピールするやうになつた。それによつて、自らフィットネスに行き始める人もゐるし、休んでゐたのを再開する人もゐる。ま、大抵の場合は、軽く笑つて受け流し、なのであるが、そんな中、頑強に「イヤだ!」と主張する人もゐる。a little beaver店主のフクイくんである。
「絶対にイヤです! だつてボク、運動神経ないもん」
そんなことないですよ。この間のボーリング大会でも好成績だつたぢやないですか。
「あれはマグレです。…運動神経がない事で、幼い頃からどんなに屈辱的な思ひをし続けたか。トラウマや。…スポーツの事なんて考へるだけでもイヤです!」
う〜む、手強い。…でもねェ、フクイくん。実は、フクイくんは抜群の運動神経を持つてゐるかもしれないんですよ。
「な、なにをいきなり無茶苦茶言つてゐるんですか!」
フクイくんが“ない”と思つてゐるのは、実は“運動神経”ぢやなくて“筋肉”なんですよ!
「???」
どんなに優れた運動神経を持つてゐても、それを使へる筋肉がなければ表に出ないんです。たとへば、私は小さい頃逆立ちが出来なくて、それは自分の運動神経が悪いからだと思ひ込んでゐたんですよ。バランス感覚が悪い、とか。でも、考へてみれば二本足で立つてゐる訳だから、原理的に逆立ちはできるはずなんです。ただ、前後左右斜めにフラフラと揺れる身体をガシッと支へる筋肉がないから、倒れるんです。同じ事ですが、スポーツをやつてゐる時の素早い身のこなし、あれは運動神経だけではなく、それを可能にする筋肉が、同じかそれ以上に大切なんです。筋肉がなければ、身体が動かないでせう? だから、フクイくんが“運動神経”だと思つてゐる部分のかなりの部分が、実は“筋肉”だつたんですよ!
「ガーン! さうだつたのかァー! ……て、実はその事は分かつてゐたんです」
へ?
「ボクの幼い時の仲間たち、みんな野球が上手くて、ボクひとり運動神経がないから下手でも シャーナイもーん、と腐つてゐたんですが、よく考へてみれば、みんなメッチャ練習してました。ボクは練習とか努力が嫌いだから、全くやつてゐませんでしたし。ボクに足りないのは、“運動神経”ではなく“努力”だつたんですね…。その事に早く気がついてゐれば、ボクの青春時代もまた違つただらうに…」
チッチッチ! なにを言つてゐるんですか。身体能力といふものはねェ、昔鍛へたから大丈夫、といふものではないんですよ。常に、今現在やつてゐる者が優れてゐるんです。下手に若い頃にスポーツマンで、現在全く身体鍛錬をしてゐないのなら、返つて身体能力は劣つてゐる可能性があります。スポーツ選手の寿命が短いのは、理のある事なんです。だからボクらが今から、キチンと計画的に、粘り強く、無理をせず徐々に身体を鍛へていけば、昔のスポーツマンなんて目ぢやないです。最後に笑ふのはこちらですよ!
「さうかー、リベンジかー」
リベンジ! リベンジ! みんなで身体を鍛へて、テラリーを倒しませう!
「結局それかい!」
小川顕太郎 Original: 2005-Aug-18;