RED HOT+ RIOT
私がフェラ・クティの事を知つたのは大学生の時だつた。フェラ・クティはナイジェリア出身のミュージシャンで、彼のやつてゐた音楽はアフロ・ビートと呼ばれ、世界中の音楽シーンに密かな、しかし多大な影響を与へてゐる。私の世代の話で言へば、トーキング・ヘッズが『リメイン・イン・ライト』で大胆にアフロビートを取り入れたのがパッと頭に浮かぶが、このデビット・バーン & ブライアン・イーノのメジャー路線以外でも、多少とも意識的なミュージシャンの間では、常にフェラ・クティの名前は口にされてきた。それは音楽の格好良さもさることながら、音楽を武器として闘ひ続けたフェラ・クティの姿勢に、みんな感銘を受けるからだ。
フェラ・クティは、はつきりと音楽を武器として位置づけ、一生闘ひ続けた。ホントに、時の政府軍と闘ひ続けたのだ。政府軍は何度も何度もフェラ・クティを弾圧してゐる。フェラ・クティは、西欧文明に侵され腐敗した文明生活を押しつける政府(と時流)に抗して生活するために、カラクタ共和国といふのを作つて、多くの人々と共同生活をしてゐたのだが、ここは 2 回ほど政府軍の大規模な弾圧を受け、壊滅させられてゐる。そのたびに一からやり直してゐるので、今でもカラクタ共和国があるのかどうか知らないけれど、とにかくこの弾圧で、フェラ・クティは家族や親戚、友人たちなど、多くの親しい人たちを殺されてゐる。本人も何度も逮捕・投獄され、酷い拷問を受けて、一度など背骨を折られ、ミュージシャンとして再起不可能と言はれたほどだ。それでも復活してくるのだから、フェラはホントに凄い男である。晩年は、「西欧文明による侵略の最新形態」とフェラが規定したエイズ禍と闘ひ続け、自らもエイズでその壮絶な一生に幕を下ろしてしまつた。このやうな一生の故に、フェラは今でも闘ふブラックパワーの象徴として、意識的なミュージシャンたちに影響を与へ続けてゐるのだ。(私がここに書いた事実の多くはうろ覚えによるものです。今はフェラの評伝が邦訳されてゐるので、興味のある方はそちらを参照してください。私もそのうち読むつもり)
私も大学生の一時期、フェラにはまり、周りの人たちに「フェラはいいよ!」とやたら薦めまくつてゐたことがある。が、そのうちに様々な雑事に流され、音楽の趣味嗜好もコロコロと変はつて、フェラのことは何となく忘れたやうな形になつてゐた。昨年あたりからフェラの再ブームが起きて、旧作の再発もドンドンすすんでゐたのだが、その時も私はなんとなく懐かしいやうな、気恥ずかしいやうな気持ちで、見て見ぬ振りをしてゐた。アフリカのエイズ禍に対する救済プロジェクトである「RED HOT」シリーズが、フェラ・クティをテーマにアルバムを制作し、それが巷で話題になつた時も、「そのうち」と思ひながら、ズルズルと一年以上も日を重ねてしまつた。で、とうとう先日この『RED HOT+ RIOT』を手に入れたのだが……もう、気恥ずかしい、などとイチビッた事を言つて黙つてゐる訳にはいかない。素晴らしい!! 内容である。私は感動した。と共に、今まで無視し続けたことを恥じた。参加してゐるミュージシャンの顔ぶれを見ても、その凄さは分かつただらうに…などとウジウジと書くのも、もうよさう。みなさん、これは素晴らしい内容のアルバムです。売り上げがエイズ禍を救ふために使はれる、といふ事を差し置いても、是非手にとつて欲しい、と思ひます。ここには、本当に格好いい音楽が詰まつてゐます。とりあへず、私はこのアルバムを、オパールで当分の間ヘビープレイします。
聴け! 踊れ! 考へろ! そして、行動しろ! と、いふ事で。
In the time it takes to listen to this album, 150 Africans will becomeinfected with HIV/AIDS.
アルバム「RED HOT + RIOT」のインナースリーブより
小川顕太郎 Original:2003-Nov-17;