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 Diary 2003・6月29日(SUN.)

泣ける映画

 ヤマネくん来店。「やあ、昨日はどうも。んーーー、もうねえ、阪神強すぎて、面白くないんですよ。たぶん、ボクが今までの生涯で見たどの球団よりも強いと思ひますよ。85 年の時の阪神より強いです、今年の阪神は。今日もねえ、デーゲームがあつたんですけど、なんか見る気がしなくて、見なかつたんですけど、一応結果だけ確かめると、案の定圧勝。まあ、当然でせう。大洋との試合なんて、プロ対高校生、といつた感ぢですよ、ホントに。だつてねえ、もうマジックつくんですよ! 実はこの間、もうマジックが点灯するはずだつたんですけど、それはあんまり、といふので阪神が負けたんで、つかなかつたんですけど、もう、時間の問題です。あー、なんか大事件が起こつて、今シーズン自体がノーゲームにならないかなあー」

 まあまあまあまあ。18 年間の溜め込みがあるせいか、クラタニくんと云ひ、ヤマネくんと云ひ、ちよつとおかしくなつてゐるなあ。

 閑話休題。先日のことだがヤマダくんが「ボクは映画を観て泣いたことなんてない」と言ふので、私は大抵の映画で泣いてゐるよ、と答へると、「ぢやあ、泣ける映画を教へて下さい。」と言はれた。よし! と意気込んだのだが、さて? と頭を抱へ込むこと 3 分。ちつとも浮かんでこない。あれー? あんなにどんな映画を観ても泣く私なのに、脳味噌が腐つたかな。…正確に言へば、浮かんでこなかつた訳ではない。アンゲロプロス『霧の中の風景』、ホロドフスキー『サンタ・サングレ』、アルモドバル『欲望の法則』…などが、とりあへず大泣きした映画として頭の中に浮かんできたのだけれど、どれも、ほとんど映画など観たことのない、19 歳のヤマダくんにふさわしいとは思へない。もつと、ベタなイイ映画があると思ふのだが、これが浮かばない。で、ババさんにきいてみた。

「そりゃ、『北京バイオリン』ですよ、『北京バイオリン』。はやく行かないと、終はつてしまいますよ!」

 なるほど。トモコにもきいてみる。

「フェリーニの『道』とかが、いいんぢやないかしら。あと、ベタといふなら『ローマの休日』とか」

 うーん、どうも、しつくりこないなあ。…で、やはりかふいふのはヤマネくんかな。

「え? 泣ける映画ですか? んーーー、個人的には『アメリカン・グラフティ』とかを薦めたいんですが、でも、ベタといふなら、やはり、『南極物語』ですよ! それと『火垂るの墓』です!!!」

 ガーン! 正に、求めてゐた映画かもしれん! よし、それで…

「でも、ボクはそのどつちでも泣きませんでしたよ」と、ショウヘイくんが入つてきた。ほう、このどちらでも泣かなかつたと。ぢやあ、ショウヘイくんはどんな映画で泣いたの?

「『ザ・フライ』です」

 …・むむむ、まあ、私も確かに泣いたけど、あまり一般的ではないやうな…

「それと『街の灯』」

 おお! 『街の灯』は素晴らしい! あれで泣かない奴は人非人だ! …ぢやあ、まあ、さういふことで。

小川顕太郎 Original:2003-Jul-1;