オイシン
甲子園に行く
オイシン来店。一昨日の水曜日、みなと一緒に甲子園に行つてきたオイシンだが、その時の話をきく。ちなみに岐阜出身のオイシンは中日ドラゴンズのファン。が、この度の甲子園は、阪神 VS 中日を、阪神側で観戦するといふ、いささか複雑な事情とあいなつた。10 人分も席を押さへてゐたヤマネくんからチケットを譲つてもらつたからだが、さういふ事情にも関はらず、オイシンは初甲子園行きを興奮を持つて語つた。
仕事帰り故、少し遅れて到着したオイシンは、駅から甲子園に向かつて急いでゐた。駅から甲子園までは出店が並んでをり、試合の興奮が漏れ伝はつてくる。道の隅では、スーツを脱いでタイガースのユニフォームに着替へてゐるサラリーマンもゐる。さすが、みんな気合ひが入つてゐるなあ、とオイシンがそのサラリーマンを感心しながらよく見ると、「あ、クラタニくん」。「お! オイシン、さあ、行こか!!」
試合はすでに佳境に入つてをり、観客席は大ひに盛り上がつてゐた。とはいへ、やはりオイシンは中日ファン。中日がやられる度に、ワー! と盛り上がられても、自分はそこまで乗り切れる訳がない。やはりこれは失敗であつたか、と少し後悔しながらも、せつかく来たのだからと、隣のクラタニくんに合はせてメガホンを叩いたり、立ち上がつて叫んだりしてゐると、これは如何なることであらうか、対戦相手が中日であるといふ意識が少しづつ薄れ、遂には「阪神と対戦してゐるどこかのチーム」といふ感ぢになり、大盛り上がりのうちに、みなと一緒に阪神の勝利を喜び合つてゐたのであつた。
甲子園を出ると、あちこちに集団が出来て奇声をあげてゐる。その中に、先日の日記にも書いた「タイガース車両」を率ゐてゐた人が居たので、オイシンとクラタニくんはそこに駆け寄つた。「みんなー! 巨人は嫌いかー!」「おー!」「ぢや! 歌ふぞ! それ! 桑田の車は 火の車〜♪」と、みんなで熱唱し、タイガースファンの器量の小ささを堪能する。それが終はると、次の集団の所に駆け寄り、みなで順次に胴上げをしたりして盛り上がる。そのやうな事を繰り返してゐるうちに駅についた。駅には駅長さんがをり、「みんなー! 電車には他のお客さんもゐるから大人しくしてやー。タイガースファンは行儀もいい、といふ所を見せたつてやー」と言ふ。みんな素直に「ハーイ」と笑顔で答へたものの、電車が駅を出た途端に、チャッチャッチャッとメガホンが鳴り始め、六甲おろしが始まつた。すると、「あんなに頼んだやないかー!」と駅長さんが登場。なんと密かに電車に同乗してゐたのだ。この駅長さん、なかなかツボを心得てゐて、当意即妙の話術ですぐに虎キチたちのハートを掴む。そこで澎湃とわき起こる「駅長コール」。「駅長! 駅長! かっとばせー え・き・ちょ!」といふ声に見送られて、駅長は次の駅で降りていつた。と、何故かみんな気が抜けたやうになり、車内は静かになつた。さすがは駅長さん、虎キチたちの飼ひ慣らし方を心得てゐる。
梅田に着くと、例の「タイガース車両」の人を中心にまたまた盛り上がつてゐた。ファンの人たちの中には、クラタニくんのやうにタイガースのユニフォームを着てゐる人たちが結構ゐるのだが、その人たちを指さして、「あ、あそこに赤星がゐる!」などと叫ぶと、みなが一斉に「赤星コール」を始め、それを受けて赤星のユニフォームを着てゐたファンの人は、猛然とヘッドスライディングをきめる! 次は「あ! あそこに桧山が…」と続いていく訳だ。オイシンは、ひとりひとりのファンのノリの良さに驚いたさうだ。また、梅田を歩いてゐると、クラタニくんのユニフォームを見て、「お、今日も勝つたんか!」と声をかけてくる人が大勢ゐて、その一体感にも感動したさうだ。
「いやー、ボクも、昨年のオパール 5 周年で漫才をやり、今回、甲子園も体験できて、やつと少し関西が分かつたやうな気がしましたよ」とオイシン。
良かつたな、オイシン。それはともかく…私は今年、甲子園に行けるだらうか。
小川顕太郎 Original:2003-Jun-8;