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 Diary 2002・5月15日(WED.)

恐怖の街

 本日は雨。お客さんもあまり来ないので、暇を持てあましてスタッフの仕事ぶりを観察していたら、奇妙な事に気が付いた。一見した所はどこといって変なところはないのだが、どうも何かが欠けているのだ。表情か。接客業の要である「こころ」が表情の中に感じ取れないのか。それはまずい。

 私はこのことを如何に伝えたらよいのか、注意すべきなのか、と悩みながら、最近は開けていなかった非常口を開け、店の裏側に出た。するとそこに、巨大な豆の鞘のようなものが置いてあるのを発見した。なんだこれは? と、しばし呆気にとられて見つめていると、突然その鞘がはじけ、中から人間の形をしたものが飛び出してきた。そのものは、人間の形はしているものの、全身粘液のようなもので包まれ、顔にあたる部分に表情はない。私はもっとよく観察するために、腰を屈めて、顔らしきものに、自らの顔を近づけた。すると、どうやらそれは徐々に変化をしているらしい。

 細長い顔に、無理に伸ばしたようなまっすぐな髪、強引に伸ばされた髭…こ、これは私の顔ではないか!! 私は驚愕して思わず後ろに飛びずさった。と、そこにはワダくんのようなもの、ショウヘイくんのようなもの、ユキエさんのようなものが立っており、逃げ道を防ぐように私を囲み、私に迫ってきた。

「ケンタロウさん、苦しいことなんてないですよ。ちょっと眠るだけでいいんです。そうすれば、悩みのない、素晴らしい人間に生まれ変わることができますよ。」

「そうです。もう店の売り上げのことで悩んだり、人間関係に苦しむことはなくなります。下らない『こころ』なんてはやく捨てたほうがいいです。」

「さあ、早く眠って、生まれ変わって、僕らの仲間になってください。」

 い、いやだ! それは人間性の放棄だ!

「その『人間性』とやらが、社会の不平等や不幸を産み出しているんじゃないですか。他人に対する対抗心や競争心が不平等を生み、そこからさらに妬みや憎しみが生まれて人は不幸になる。そもそも他人と違おうと考える事自体、傲慢です。さ、はやく、僕たちの仲間になりましょう。」

 こ、この***どもめ!! 私は薄れゆく意識の中で必死に抵抗を…。

 …‥あー、もういい加減にします。

小川顕太郎 Original:2002-May-16;