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 Diary 2000・5月30日(TUE.)

エゴイズム

 オイシンが『なぜ人を殺してはいけないのか』という本の感想を述べてきた。しかし案の定混乱しているので、「対話」を試みることにした。どうせ店も暇だったし。

 まずオイシンは基本的に「殺人はいけない」と言う。基本的に、という事は例外もある訳だ。

 では例外的に許される殺人とはどのようなものか、と問えば、「しっかりとした主張のある殺人ならいい」と言う。

 ふうん、じゃあテロとかは許されるの?

「いや、テロは目的が殺人によって必ずしも達せられる訳じゃないじゃないですか。それでは駄目」。

 じゃあ、快楽殺人はいいの? 主張もはっきりしているし、目的もしっかり達せられるよ。

「ああああ〜、いや駄目駄目! 快楽殺人は駄目です。ええと、つかまる事を前提にしてないと駄目なんですよ」。

 はあ?

「だから、捕まらないと思って殺人をするのは駄目なんですよ。それは卑怯というか。捕まる事を前提にしてるのはいいんですよ」。

 なんだか良く分からないけど、じゃあ、この間の 17 歳の子で「人を殺す経験がしてみたかった」といって人を殺したのはいいの? あれは主張もはっきりしているし、目的も達せられたし、なおかつ自首しているが。

「ああああ! ダメダメ! ダメですよ! あああ!!」といった具合。

 そこで今度はこちらからある仮説を提示してみた。オイシンのお母さんが事故で植物人間に、お父さんがいきなり惚けてしまったとする。そこでオイシンはデザイナーの道を諦めて妹のおたまと一緒に実家に帰らなければならなくなった。オイシンは逃げてきたはずの実家の工場の仕事を切り盛りしなければならず、家ではお父さんが惚けたとはいえ元気でその世話に翻弄され、お母さんは何も言ってくれない。忙しくストレスが溜まる一方で、何の楽しみもない生活。たまに入ってくるニュースによると、かつての友人等は次々デザイナーとして成功しているらしい…、となったらオイシンはどうする?

「え? それで両親を殺すかという事ですか? 殺す訳ないでしょう!」

 なるほど。では、もしその状況で、妹おたまに両親殺害を持ちかけられたらどうする? お兄ちゃん! 私らにだって自分の人生を生きる権利はある、お兄ちゃんもこのままでは嫌やろ? とか言われたらどうする?

「う〜ん、おたまの言う事も分かりますが…ダメダメ! それでも殺人はダメですよ」

 なるほど。ひとつ確認するけど、そういう状況で両親が死んでくれたらいいと思う?

「そりゃ、そうでしょう」

 なるほど。じゃあ、もし妹おたまが勝手に両親を殺してしまったら?

「ううううん、警察に突き出します。」

 ええ! ? なんで? オイシンはそれで助かるやん。

「そうですけどお、やっぱ殺人はダメでしょう。」

 でも、おたまちゃんは自分の手で自分の人生を切り開こうとしたんだぜ。それをオイシンは潰しておいて、自分だけ漁夫の利を得ようっていうの?

「おたまには悪いと思いますけど…まあ、一生おたまには引け目を感じて生きると思います」

 なんじゃそれは! 私には自分の親しい人を国家の側に売り渡すというのは全く理解できない。当然おたまちゃんを庇い、助けてやるべきだと思う。

 しかし、もしかしたらこれは「悪法もまた法なり」と言って毒杯を仰いだソクラテスの問題が潜んでいるかもしれない。そう思い、気を取り直してオイシンとの対話に戻った。が、結果から言うと、ソクラテスなど何の関係もなかったのだ。色々と話しているうちに、オイシンはこう言ったのだ。

「でも、いくら隠したって殺人とかいつかばれるでしょう。」

 はあ? それが何か関係あるのか?

「もしばれちゃったら、結局ボクの人生まで台無しになっちゃうじゃないですか」

 な、なにい! 要するにオイシンは自分さえ良ければそれでいいのか! 結局オイシンにとって一番大事なのは我が身の保身。オイシンにとって許される殺人は自分に関係ない殺人、自分が殺される可能性のない殺人なんじゃないの。だから快楽殺人とかテロはダメなんじゃないのか。

 例えばオパールまわりの人間、ババさんであるとかエキスポの二人とかが犯罪を犯した場合、私は積極的に隠蔽工作に加担するだろう。そんなもの当たり前だ。しかし、オイシンは自分の身が危ないと思ったらすぐに警察に通報するという事だ。それじゃ、こちらも我が身の「保身」のために、早めにオイシンを埋めておくか。ババさん、隠蔽工作の協力、よろしくお願いします。

小川顕太郎 Original:2000-May-1;