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 Diary 2000・8月12日(SAT.)

文豪

 早番のトモコを店へと送り出した後、可能と一緒に近くの喫茶店「扉」に行く。そこで話した事。

「オレは文豪になる事に決めたよ」。最近、可能は自ら「文豪」になる事を宣言し、周りの人間にも言いまくっているそうだ。おかげで周りからは「ブンゴー、ブンゴー」と呼ばれ、「ブンゴー、ちゃんと小説書いてるか?」と挨拶されるようになったという。

「トマス=アクィナスでもそうだけど、聖人と呼ばれる人は自分から聖人になろうと志すものなんだよ。気付いたら聖人になってた、というのはめったにない訳。最初のうちは、傲慢だ、バカだと罵られながらも、聖人になるという強い意志のもと生きるんだよ。そうすれば、才能があれば聖人になれる。才能だけではダメ。文豪も一緒だよ。」勿論、可能は「文豪」になると宣言しているだけではない。ちゃんと小説も書き始めている。

「創作上の産みの苦しみ、なんてバカらしいよ。それは才能がないだけ。才能のない奴がなにか作ろうとするから、苦しむ事になる。芭蕉も言ってたけど、ほんとにいいものを書いている時は軽いんだよ。気分爽快で、ちゃっちゃっちゃっと。オレは創作で苦しんだ事なんてないから。」

 可能が現在書いている小説は大長編で、100 歳までには書き終わらないかもしれないという。

「才能が年とともに枯渇する、というのも嘘。それは最初から才能がなかったの。北斎も言ってたけど、人生は 70 歳からだよ。オレもそう思っている。まあ、オレは不摂生な生活しているから 45 歳ぐらいで死ぬかもしれんけど。」

 そう言いながら、可能はホットドッグとサンドウィッチとコーヒーを 2 杯、たいらげた。

 店の方は昼間は暇で、夜はそれなりに盛況。お盆が関係あるのでしょうか。夜風はまだまだ生温い。

小川顕太郎 Original:2000-Aug-14;