Movie Review 1999・12月14日(TUE.)
1999 年 11 月 25 日〜 12 月 10 日の約二週間、京都みなみ会館で開催された『パゾリーニ映画祭〜その詩と映像』を振り返り、当サイト、レビューの常連投稿家のオガケン氏、ヤマネ氏、BABA 氏の三氏による座談会です。
座談会:
「パゾリーニ映画祭」を振り返って
- 管理人
- 本日は、このサイトで煽るだけ煽ったからちゃんと総括しとかにゃいかんでしょう、ということで『パゾリーニ映画祭推進委員会・河原町三条上ルレディックビル 6 階支部』のオガケンさん、BABA さん、ヤマネさん、略して『オバヤマ』のみなさんにお集まりいただきました。
- 一 同
- いや〜! お疲れさまでした〜!
- 管理人
- …って、あんたら映画見てただけやん! 誰やねん!
- BABA
- うるさいんぢゃ! みんな仕事をオッポリ出して見に行ったりしてたから苦しかったんだよ!
- 管理人
- はあ……。取りあえず、やっと終わりましたね。ボクと BABA さんは、ほぼパゾリーニ初体験だったのですが、昔からパゾリーニを見てたお二方ははいかがでしたか?
- ヤマネ
- とりあえず、一番印象に残ったのは、『マンマ・ローマ』のエットレのネクタイが短かかった、ってことですね。
- BABA
- アレは確かに短かった。やっぱり、当時イタリアの貧乏人は、普通の長さのネクタイすら買えなかったってことを訴えているんだな。
- 管理人
- ……。短いと、安いんですか?
- BABA
- 知らん。
- 管理人
- ……。え〜っと。『マンマ・ローマ』はパゾリーニの長編二作目で、アンナ・マニャーニ扮する元娼婦と息子のお話でした。
- オガケン
- ヤマネ君は、初期作品が好きなんだよね。
- ヤマネ
- フィルモグラフィで言うと、『アッカトーネ』から『アポロンの地獄』までです。
- オガケン
- ボクは『生の三部作』は『デカメロン』しか見られなかったんだけど、かったるいの?
- ヤマネ
- かったるい、ってほどではないんですが。なんちゅうか、フェリーニに近い感じですね。
- BABA
- なるほど。こう、あんまり難しいこと考えずに「ああ、映画を撮るってなんて幸せなんだろう」って風に見えるってところとか。
- オガケン
- でも、ちゃんと戦略はあると思うんだけどね。ボクが好きなのは『ソドムの市』は別格として『テオレマ』『アポロンの地獄』ってところかな。
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『アポロンの地獄』
- 管理人
- 『アポロンの地獄』は、ギリシャ悲劇のエディプス王の物語を元に、パゾリーニが古代ギリシャの時代考証を全くせずに作ったという初の長編カラー作品です。確かに『アポロンの地獄』はワケわからんけど凄かったですね。始まり方がスゴい。
- オガケン
- ファシズムが支配するイタリアから始まるんだけど、ファシストの父親が「こいつはきっとオレを殺してオレの嫁とまぐわるに違いない」とか言って赤ん坊を持ち上げると、次のカットでモロッコかどっかで赤ん坊が棒にくくられてエッホエッホと運ばれているという…。
- ヤマネ
- どこまで捨てに行ってんねん! って感じですね。
- 管理人
- ……。
- オガケン
- そうそう。スフィンクスもメチャクチャ弱いし。街の人がみんなメチャクチャ怖れてて、「お前にオレは倒せない」とか言われても「知るか! オラオラ〜!」って感じでブッタ切る。
- BABA
- 普通やったら、あんなワケわからんヤツがいたらビビるっちゅうねん。エディプスって考えたらメチャクチャ凶暴なヤツだよな。円盤投げでもズルとかする、結構イヤなヤツ。
- ヤマネ
- とにかく風景とかカッコいいですね。こう、カメラがずるずるっとパンをするところとか。
- 管理人
- 解説しとくと、パンっちゅうのはカメラの位置は動かさず、向きを左右に変える動きですね。
- ヤマネ
- こう、茶色の土の建物にひょこっといい顔したヤツがいるという…。顔だけで「こいつ貧乏人!」ってわかってしまいますね。
- オガケン
- 脇役まで、役者の顔がメチャクチャいいよね。
- BABA
- 顔をドーンと撮るカットが多いんだけど、アレなんかは西洋絵画の肖像画風なんだ。ダニロ・ドナティの衣装も全部絵画からの引用みたいだな。
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『ロゴパグ』
- 管理人
- 絵画の引用と言えば、活人画っちゅうんですか、絵画をライブで再現するというのを『ロゴパグ』の中の『リコッタ』でやってますね。
- BABA
- ウンチクを言わしてもらうと、あれは『十字架降架』という、最初がロッソ・フィオレンティーノ、次がポントルモっちゅうマニエリスモの画家の絵を再現しているんだけど、他の作品でもとにかく絵画の引用がアチコチにある。
- 管理人
- 『ロゴパグ』は、ネオリアリスモの巨匠ロッセリーニと当時インテリ好き二大監督のゴダールとパゾリーニ、よくわからないグレゴレッティという四人の監督が「世界終末に向けての楽しい始まりについて語る四つの物語」というオムニバス映画です。
- ヤマネ
- それにしても『ロゴパグ』は、パゾリーニ以外はひどかったですね。
- オガケン
- ゴダールなんか全然やる気ないし。ロッセリーニは、まあ、こんなもんかな? って感じだけど。
- BABA
- ゴダールは、『ベトナムを遠く離れて』というオムニバスで手を抜きまくったので喧嘩した、とウィリアム・クラインも言ってた。自分の作品の『中国女』にばっかり力を入れてたらしい。
- オガケン
- ゴダールって、やっぱりプチブルなんですよ。
- ヤマネ
- ところでグレゴレッティってお前誰やねん?!
- 管理人
- IMDbで調べると、1990 年にはマルコム・マクダウエル主演で“Maggio musicale”というのを撮ってたりしているらしいです。でも全然日本人には馴染みがないですね。
- オガケン
- なんか、ビッグネームに囲まれてガンバリ過ぎて空回りした、って感じだな。って言うか、やっぱりパゾリーニの『リコッタ』が素晴らし過ぎたね。
- ヤマネ
- 圧倒的ですよ。リコッタ・チーズを買いに行くトコとか。早回しで音楽もチャカチャカチャカってふざけた感じで。
- 管理人
- ……。音楽ですか…。
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『愛の集会』
- ヤマネ
- やっぱりゴダールと違ってパゾリーニはホントに貧乏人に愛をそそいでる感じですね。『愛の集会』でもおっさんとかが「男尊女卑がいいんだ。女がちょっと下がいい。あまり下でもいけない」とか言うのを「ふむふむ」って聞いてたりして。自分はホントは貧乏人みたいにシンプルな信念を持った人になりたいんだけど、なり切れない、ってとこが。
- 管理人
- 『愛の集会』は、「イタリアでは離婚が認められてないけど、どう思いますか?」とかパゾリーニが労働者に色々質問して、イタリアの大作家のモラビアとよく知らない精神分析学者がコメントするっていうドキュメンタリーですね。
- オガケン
- パゾリーニは家系的にはイイトコ出なんだけど、下層階級と触れあいたい! って感じだな。五月革命に浮かれてたゴダールとはワケが違う。ところでモラビアって、あんなアホなヤツとは思わなかった。
- ヤマネ
- ホント! 「ここに映っているのがイタリアです。ここに映っていないのもイタリアです」って、当たり前やん! そんなん誰でも言えるっちゅうねん!
- 管理人
- ……。
- ヤマネ
- それから、「怖れが怒りになるのです。民衆はみんなイエスを見習うべきだ。イエスは怒ったことがなかった」とかモラビアが言うと、パゾリーニも「ふむふむ」とか納得しているようなフリをして聞いてるけど、『奇跡の丘』のイエスは怒りまくってるやん!
- 管理人
- ……。ホントですね。
- ヤマネ
- 労働者のおっさんとかが「同性愛者なんて気持ち悪いんじゃい!」とか言うのをパゾリーニが『そうですね…』とか答えてるのも、なんか可哀想でした。
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『奇跡の丘』
- 管理人
- 『奇跡の丘』は、『マタイによる福音書』を元に〈無神論者〉のパゾリーニが撮ったキリストの生涯です。日本で最初に公開された記念すべき作品でもあります。キリストはカッコ良かったですね。おいしんさんはよくわかんなかったみたいですけど。
- BABA
- いや、おいしんもああ見えてなかなか鋭いんだよ。「にしてもこの役者さんはこんなテンションの高い役を演じてしまって、通常の生活に戻れたんかなあ?」と書いてたけど、この役者さん、撮影が終わった後に「自分はキリストだ!」とか言い出して精神病院に入っちゃったらしい。
- 管理人
- ……。それは凄いですね。
- ヤマネ
- この映画、カソリック教会とかは大嫌いだけど、キリストその人は愛しているパゾリーニの気持ちがよく出てますね。
- オガケン
- 革命家としてのイエスだな。
- BABA
- 説教がほとんどアジテーションだもんね。なんか教会から賞をもらった作品らしいけど、細かい事は抜きにしてそれくらいイエスがカッコ良かったってことかな。中盤のマシンガン・トークとかスゴかった。取りあえず眉毛がつながってるし。
- 管理人
- ……。それはどうでもいいでしょう。
- オガケン
- とにかくザックリ感がスゴイ。細かいところはどうでもいいっていうか。終わり方も全部スゴいし。『デカメロン』とか、パゾリーニ扮するジオットが、「夢の方が素晴らしいのに、なぜ絵を描き続けるのだろうか?」でバスっと終わる。
- BABA
- ホント。もう話終わってるんやから、とっとと終われや! っちゅう映画が多すぎるからね。
- オガケン
- アントニオーニの『太陽はひとりぼっち』ってのを見たんだけど、パゾリーニの後に見るとやっぱり終わり方がダラダラしてて参った。
- BABA
- パゾリーニはとにかくスパッというか、バスッというか、ゴリゴリッとしたところがいい。
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『ポエジーとしての映画』
- オガケン
- 『ポエジーとしての映画』というパゾリーニの論文を読んだんですけど、わざとゴリゴリっとした異質なところを残しているみたいですよ。
- ヤマネ
- 『映画理論集成』(フィルムアート社)に収録されているヤツですね。ボクも読みました。
- オガケン
- 記号論とかよくわかんないんだけど、割とペシミスティックな見解を述べている印象を受けた。文学と違って、映像言語ってのはまだ『辞書』がないってことで、映像作家はどっからでもイメージを持って来れるので、映画ってのは非常に主観的で、イメージで持って間接的に概念を描くからポエジーなんだけど、映画として整えられると客観的なモノになる。で、まあ色々やってもどうしてもブルジョアジーに取り込まれてしまうんだ、だから、取り込まれないように、異質なモノをワザと入れているんだ、という風に読みました。
- BABA
- …。なんだかよくわからん。
- 管理人
- す、すいません。うまくまとめられません。
- オガケン
- いいよ、いいよ。よくわからない人にはお店で解説してあげましょう。
- 管理人
- …お願いします。
- ヤマネ
- 『ポエジーとしての映画』って色々批判されたんですよね。
- オガケン
- 四方田犬彦と浅田彰の『批評空間』の対談でも言われてたけれど、ウンベルト・エーコなんかは、パゾリーニは「記号論の ABC も知らない馬鹿」という感じで批判したんだ。でもジル・ドゥルーズは『シネマ』で、そうじゃないんだ、パゾリーニは映画記号論を「前もって乗り越えようとしていたのだ」という風に評価しているんだね。
- BABA
- ボクもぜひ、読んでみましょう。でも、パゾリーニの本って全然ないね。
- オガケン
- これも『批評空間』で言われてたんだけど、イタリアなんかに行くとパゾリーニ資料館みたいなのがあって、そこの図書館に世界各国のパゾリーニに関する書物が集められているんだって。日本のものもあるんだけど、70 年代でピタリと止まっているらしいよ。
- BABA
- やっぱり死に方があんなんだったから、って言うのもあるんでしょうか?
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『ソドムの市』
- オガケン
- 『ソドムの市』みたいな映画を撮っちゃうと、暗殺されても不思議じゃない、って気がしますね。
- BABA
- ホント凄かった。
- オガケン
- チェケヘロさんも「 1 万円置いて帰ろか思た」と言ってた。普通の映画が 1800 円とすると、1 万円くらいの価値があると。
- BABA
- 毎年でも見たい感じ。常設上映館があってもいいくらい。
- オガケン
- 年中、『ソドムの市』ばっかりやってるとか。
- 管理人
- ……。イヤな映画館かもしれない。
- ヤマネ
- 『ソドムの市』は、『ワイルド・パーティ』と同じで、とにかく別格なんですよね。
- オガケン
- これはレビューにも書いたんだけど、『ソドムの市』ってのはパゾリーニが猛然と資本主義に対して戦闘を開始した映画だと思うんですよ。最初に中庭に子供たちを集めて支配者が『ここでは欲望がすべて許されているんだ』とか言うでしょ。つまり、あれは現代の資本主義社会のことなんです。
- BABA
- おおおお! なるほど。
- オガケン
- で、ウンコとか食べさせるけど、アレは虐めてるんぢゃないんですよ。支配者は『こんなうまいのに、この味がわからんとは』とか言って、自分も食べてるし。つまり自分の趣味を子ども達に押しつけているんですよ。現代の資本主義社会では欲望を作り出すために、評論家とかが庶民にクソを食うことを押しつけている、ということだと思うんですよ。川勝とか。
- 管理人
- 川勝って川勝正幸のことですよね。
- オガケン
- そうです。
- 管理人
- 川勝って川勝正幸のことですよね。
- オガケン
- ……。そうです。
- ヤマネ
- オガケンさん、それは『ソドムの市』を楽しみ過ぎですね。
- BABA
- 死ななかったら『ソドムの市』の次はどんなことになってたかを考えると、ホントに残念でならないッス。
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ナンニ・モレッティ
- オガケン
- パゾリーニは、跡を誰も継いでないって感じですね。
- ヤマネ
- モレッティがいるじゃないですか! パゾリーニほどのザックリ感はないですけど。率直ですからね。
- BABA
- それにしてもイタリアの映画監督ってあんまり話題になりませんね。
- ヤマネ
- フェリーニとか、死んでからドンドン話題にならなくなっているし。フランスの監督とエライ違いですね。
- BABA
- やっぱりフランスは文化戦略で京都をパリ化しようとしてたりするから、煽りを食ってイタリアの監督がドンドン忘れられていってるんだな。 みんなフランスにイてコマされ過ぎ。イタリアっていい監督がいっぱいいるのに。ロッセリーニとか、ピエトロ・ジェルミとか、セルジオ・レオーネとか。
- ヤマネ
- ビットリオ・デ・シーカとか、ダリオ・アルジェントとか、ヤコペッティとか。ヴィスコンティもそうだし。イタリア最高! ベルトルッチも『1900 年』とかまではかなり良かったですからね。『革命前夜』、『暗殺の森』、『暗殺のオペラ』とか…。みんなもっとイタリア映画を見なきゃあダメですよ! 知らなさ過ぎですよ。
- オガケン
- おいしんに「パゾリーニ見に行け!」とか言ったら「パゾ? それどこですか?」とか言ってたくらいだもんなあ。他にもベッチ、マチデくん、フランス好きの高橋マキさんら、ほっといたらきっと行ってなかった人々を送り込んだので『パゾリーニ映画祭推進委員会・河原町三条上ルレディックビル 6 階支部』の活動は大成功でしょう。
- BABA
- ボクも『仕事をサボってパゾリーニへ行こう』キャンペーンがなかったらこんなにたくさん見なかったと思うし。大成功です。
- 管理人
- 取りあえず、なんとなくまとまった感じですね。
- ヤマネ
- 次はモレッティで盛り上がりましょう!
- 一 同
- エイエイオー!
Original: 1999-Dec-14;