バットマン ビギンズ
全く新たな衝撃が舞い降りる!! ババーン! 若干ネタバレですが、ティム・バートンの『バットマン』に繋がるバットマン誕生秘話、監督・脚本は『メメント』『インソムニア』のクリストファー・ノーラン、もう一人の脚本家は『The Crow/ザ・クロウ』『ダーク・シティ』『ブレイド』シリーズのデヴィッド・S・ゴイヤー。
と、いうわけで、大スターがアホな格好するのを笑うだけになってしまったバットマン・シリーズが新装開店、かつてここまで暗くて重いアメコミ映画があっただろうか? …うーんと、アメコミ原作ではないですけど『アンブレイカブル』が近いかも?
すこぶる面白いのは、バットマン誕生秘話を徹底してリアリズムで描こうとしている点で、バットマンが駆使する秘密兵器の数々、それがどのように発想され、どのように開発されたか? …あやしまれないようパーツを別々の国に発注する、例えばバットマンの仮面の耳は、中国に一万個発注! 余計あやしいっちゅうねん! という具合の思考実験のおもむきあり、一ヶの巨大な法螺ばなしを成立させんと細部を徹底的に吟味しまくる姿勢が素晴らしく、これこれ、こうでなくっちゃ! 『戦国自衛隊1549』『ローレライ』はこの『バットマン ビギンズ』を見習いたまえ、と一人ごちました。
また、リアリズムはバットマンの心理面にもつらぬかれます。なぜ彼はコウモリの格好をしているのか、なぜ、度はずれた大富豪が正義の味方となるのか? 幼少期のトラウマにさかのぼって分析が加えられるのであった。
主人公ブルース・ウェインの父親は大富豪の慈善家で貧者救済に熱心でしたが、貧者に殺されてしまうという皮肉な最期を遂げます。
ブルース・ウェインは両親の死に責任を感じつつ、悪を倒すには悪を知らねばならないと犯罪にも手を染め放浪、やがて彼は「影の軍団」で修行を積む。導き手はリーアム・ニーソン、「正義とは何か?」みたいな問答が展開します。
この「影の軍団」を率いるのが『ラスト・サムライ』渡辺謙、なんで千葉真一とちゃうねん! と多くの方がつっこまれたことと存じます。
閑話休題。善なる社会を実現するには、慈善では不十分で、悪を力で倒さなければならない。オレは悪人に恐怖を与える存在になる! …との認識にブルース・ウェインは達します。両親殺しの犯人が司法取引で釈放されるだとぉ? 許さん! と拳銃持って裁判所に向かうという展開もあって、このへんは『ダーティーハリー』的ですね。悪を倒すため、ハリー・キャラハンはダーティに徹し、バットマンはダークに徹するのであった。
しかしブルース・ウェインは「影の軍団」入りに必要な、「悪人殺し」の儀式を敢然と拒否、「裁判を受けさせろ!」と主張します。ここらあたりは、『ダーティーハリー2』同様、「正義」は「独善」に陥りやすいが、その違いはどこにあるのか? という考察がなされております。
バットマンに関する考察は、現代アメリカ論でもあり、ブルース・ウェインは両親の仇を討ちたいという復讐心から出発し、ゴッサムシティの正義の行使者となる。これは、9.11の復讐心を利用・操作して、アフガン→イラクに侵攻したアメリカの姿と重なるのではないか? ではアメリカは「独善」に陥っていないと言えるのか? 人は「内面」ではなく「行動」で決まる、アメリカは口先ではなく、実際やっていることで判断されるべきである、とこの映画は鋭く指摘しているのであった。…なーんてことを考えました。
そんなことはどうでもいいのですが、映像も、「これまで誰も作らなかったリアルなヒーロー物を作る!」とのクリストファー・ノーラン+デヴィッド・S・ゴイヤーの意気込みがビンビン伝わる仕上がりです。
バットマンが悪人をこらしめるアクションシーン、「悪人に恐怖を与える」というコンセプト通りに、バットマンはまるでホラー映画のモンスターのごとく描かれるのがなんか凄いし、筋肉ムキムキの上に、強化服を着ているからと、動きがやたら重いのもリアルです。
特撮もミニチュアが多用されているようで、CGに頼り切っておらず迫力あり、バット・モービルもリアルな重量級、アクションに重みがあるのが素晴らしいな、と。ちょっとカット割りすぎで、何が何やらわからないところが多いのは惜しいな、と。
暗くて重くて上映時間2時間20分、見応えタップリ、バットマンの執事マイケル・ケインのひょうひょうとした演技がコメディ・リリーフ、脚本もよく練られた感じ、ブルース・ウェインが放浪するヒマラヤの風景も壮大でカッコよくオススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2005-Jun-23;