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 Movie Review 2004・1月17日(SAT.)

ミスティック・リバー

 現代アメリカ、普通にまともな映画が撮れる数少ない監督の一人、クリント・イーストウッド待望の新作。ボストンの住宅街、仲良し少年 3 人組、そのうち背の低い一人、「こいつ絶対ショーン・ペンになるゾ!」って感じであったかい気持ちになるのですが、それはともかく道路で遊んでいたところ、背の高い少年一人が刑事(ニセ刑事?)に誘拐される事件が起きます。…そして 25 年後、大人になった三人は、殺人事件を契機に再会を果たす。一人は被害者の父親、一人は刑事、もう一人は、もっとも疑わしい容疑者として…。ババーン!

「もうひとつの「スタンド・バイ・ミー」」…云々という宣伝文句なので、再会した三人が「子供の頃は面白かったねー」と回想するほのぼの感動話か? と思いましたが大丈夫でした。そう、(日本の)宣伝文句は平気で嘘をつくし、平気でネタをバラすから注意が必要なのであった。ちなみにアメリカの宣伝文句は、“We bury our sins, we wash them clean.”――「俺たちは罪を埋める。俺たちは罪を洗い流す。」ふむふむ。って、この“We”が何を指すか? がポイントですかね。ってよくわかりません。

 脚色は『ブラッド・ワーク』に続いてブライアン・ヘルゲランド。ヘルゲランドは、『ROCK YOU !』はちとアレでしたが、『LA コンフィデンシャル』『ペイバック』『ブラッド・ワーク』と、犯罪サスペンスの脚本でメキメキ頭角を現しており、そもそもイーストウッドは犯罪サスペンスが大得意、ヘルゲランドと組むと、情け容赦無さが増す感じ? 複雑な話を整理するのが滅法うまく、今回も、成長した三人を紹介しつつ、伏線を配置しながら、死体発見に至る過程が丁寧に描かれ、ゆっくりと始まって前半のクライマックスへつながるあたりは最高に素晴らしい! と私は呆然と一人ごちたのでした。

 事件の真相はラスト近くまで伏せられてハラハラドキドキ、…って、ミステリーを見慣れた方なら、いちばん怪しいヤツが犯人ではありえないのは自明のこと、途中で犯人がわかっちゃって少々萎えますが、それを補って余りあるのが、主演男優四人アンサンブルの素晴らしさで、…え? 三人じゃないの? いやいや、ケヴィン・ベーコン刑事の相棒ローレンス・フィッシュバーンが最高でございます。トンチをはたらかせて容疑者を追いつめたつもりが、しっぺ返しをくらってショボンとする涙目具合とか。

 そんなことはどうでもよくて、イーストウッド作品の凄いところは、一級の犯罪サスペンス・エンターテインメントでありながら政治映画でもある点で、というか、すべてのエンターテインメントは政治的、すぐれたエンターテインメントほど高度に政治的なのである。『ダーティ・ハリー』『許されざる者』『目撃』…などなど、イーストウッドは一貫して「真の正義とは何か?」を追及し、「法と秩序」の回復を訴え、正義の味方ヅラした偽善者を厳しく罰してきました。この作品は、イラク攻撃に対する批判となってまして、ショーン・ペンの犯罪とラストのパレードは、アフガン・イラクを攻撃したアメリカの姿と重なります。復讐しようとする意思と行動は正しいかもしれないが、それは冷静に行われなければならない。法による裁きを行う余地が残っているのなら、あえて法を破るべきではない、と、イーストウッドは正義なきアフガン・イラク攻撃を批判します。アメリカは償いようのない、重い十字架を背負ってしまった、と諦念をにじませつつ。

 ネタバレですが、「あなたは正しい行いをした」と奥さんが S・ペンを全面的に赦すのが凄い、というか気色悪いです。「民主主義」的には、多くの国民が支持したから、イラク攻撃は正しいことになるのだろうが、犯した罪はそんなことでは決して正当化されないのだ。イーストウッドは、アメリカの「民主主義」に対して不信を表明しているゾ、と私は呆然と深読みしたのでした。

 イーストウッドは、民主党支持者が多いアメリカ映画人にあって、一貫して共和党支持者でした。共和党内部にも様々な政治潮流があり、「共和党=タカ派、好戦的」という図式は間違いであります。イーストウッドは、「アメリカは、やたらと世界を管理してはならない」と考えるリバータリアン、アンチ・グローバリストです。(イーストウッドの政治的立場については、副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』『アメリカの秘密―ハリウッド政治映画を読む』をぜひお読みください。)

 一方ティム・ロビンスは、ゴリゴリの民主党支持者で、昨年には妻のスーザン・サランドンとともに「反戦」の意思表示をし、「国賊」呼ばわりされ脅迫めいた仕打ちを受けたそうです。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-04-17/06_03.html

 さらにショーン・ペンは、自称「共和党でも民主党でも緑の党でもない無党派」だそうですが、イラクを侵攻したブッシュ政権を批判する意見広告を出し、年末にはバグダッドを訪問したそうです。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-06-01/07_01.htmlhttp://www.eiga.com/buzz/021217/14.shtml

 この『ミスティック・リバー』は、リバータリアンのイーストウッド、リベラル左翼のティム・ロビンス、「無党派」ショーン・ペンが、「イラク攻撃反対」の一点で一致して作り上げた前代未聞の作品なのであった。

 ではケヴィン・ベーコンの政治的立場は…? って感じですが、最近、性欲の塊みたいな役ばかりの K・ベーコンにとって、イーストウッドの分身的役柄をスマートに演じてカッコ良さバチグン、奥さんから電話があって「ウホッ!」と笑いをこぼす表情が超かわいい、おいしい役なのでそれは良しとして。

 2 時間 18 分はちょい長いかな? とか、過去の少年誘拐事件が T ・ロビンス以外に与えた影響がよくわからないかな? とか、T・ロビンス、いかにリベラル嫌いのイーストウッドが描くにしても、かわいそ過ぎ! とか、色々ありますけれども、ゆるいところも含めてイーストウッド最高! これからも死ぬまでヘルゲランド脚本、ケヴィン・ベーコン主演で傑作を作り続けていただきたいものです。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Jan-15;

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